request

□千の想い
2ページ/4ページ


「あっ、瀬多さん」
「…白鐘」

ジュネスのフードコートで1人で黙々と鶴を折っていたら、最近知り合った自分の恋人と同じ名前と同じ顔を持つ少女が声を
かけてきた。

「すごい鶴ですね…。全部瀬多さんが作ったんですか?」

色とりどりの折り鶴の山を見て、白鐘は驚く。

「千羽鶴を作っているんですか?」
「ああ…」
「あの…私も一緒に鶴を折ってもいいですか?瀬多さんのお手伝いをしたいです!」
「えっ?」
「あ、す、すみません!…ご迷惑ですか?」
「…いや、助かるよ。お願いしてもいいかな?」
「は、はい、ありがとうございます!」

白鐘は、俺の隣に座り、水色の折り紙を一枚取る。

「…折り紙をするのは久々です。えっと…」

正方形に折ると白鐘の手が止まった。

「次はこうするんだよ」
「あっ…」

自分の手と彼女の手が触れた時、"直斗"と初めて一緒に鶴を折った事を思い出す。
ただ…違うのは後ろからではなく、面と向かい合ってだが…。

「…覚えた?」

一緒に教えながら折った鶴が一つできると俺は、ずっとうつむいていた彼女に声をかける。

「は、はい!あ、いえ、あの…すみません。もう一度、教えてくれませんか?」
「…いいよ」

それから、1時間かけ千羽鶴ができた。

「ありがとう…白鐘が手伝ってくれたおかげで早く出来た」
「い、いえ…瀬多さんのお役に立てて嬉しいです」
「あっ、鶴が一つ余っている」

…これは、確か俺と白鐘が最初に一緒に折った鶴。

「こ、これはその…」
「?」
「えっと…この鶴もらってもいいですか?」
「それはいいけど…」
「ありがとうございます!」

白鐘はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、折り畳まれた水色の折り鶴をそれに包む。

「その鶴どうするの?」
「えっと…部屋に飾ろうかなと思いまして…瀬多さんと一緒に折った鶴だから…」

頬を赤く染めながら、小さく笑う白鐘の表情があの時の"直斗"の表情と重なる。

「瀬多さん?」
「ああ、悪い。なんでもないよ…じゃあ、俺、もう行くから…」
「あの、瀬多さん!これ…」

白鐘は、去ろうとする俺の手を取ると、俺の手の平に白い折り鶴を置く。

「…これを俺にくれるのか?」
「は、はい…瀬多さん、時々つらそうな顔をする時があるから…だから、これをお守りにしてくれると嬉しいです。瀬多さんが
幸せになりますようにって願いながら折りました」

彼女から俺への親愛を感じる。
でも、俺は…彼女にそれを返す事はないだろう。

「…ありがとう。大事にするよ」

お礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ