信浜

□咲き乱れし花 (R18)
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ポタポタと水が髪を伝い床に落ちてゆく。

風呂上がりの火照った身体に冷えた寝巻を纏っても、身体の中の熱はまだこもったままだ。

ガラガラと戸をあけ彼がいるであろう寝室へと向かう。

冷たい床は足の方から少しずつ体温を奪い、浜路は「寒い…」と一言呟いた。



寝室の戸をサッと、案外軽い音を立ててあけると、彼はもう布団に包まっておりこちらに背を向けていた。

信乃が起きてしまわぬようにと、なるべく音をたてぬよう戸をゆっくりと閉めた。
そのままそろりそろりと、足を動かし厚い布団の上に座った。
、と、枕元に置きっぱなしになっていた花の模様が入った赤い櫛に手を伸ばし、大分伸びた濡れた髪を溶かしていく。

「髪、伸びたな」

声をかけられ「何だ、起きてたの」といつも通りの緩い口調で何気なく言おうとしたのだが、今はまったく別の事に気をとられてしまい、口を動かすことはできなかった。

信乃が浜路にまるで幼子が母に甘えるかのように後ろからぴったりと身体を密着させ、つまりは抱きしめているのだ。

ここで狼狽えてしまうのは何だか格好悪くて恥かしいので、浜路はそれを隠そうと少し緊張しながら口を動かす。

「だ…だってもう小僧なんて言われたくないもの。何度自分は女だって力説したか分かる?
そりゃあ髪の毛が長いといろいろと邪魔になることが多いけどさ」

浜路の言葉に信乃は少々苦笑しながらも、浜路を抱くその腕に力を少し加えた。

それから「おめえさんは髪を切ろうが切らなかろうが、もう男に間違われることなんかねえさ」といつもより少し甘めの声で耳元で呟いてみると、浜路の顔が少しあかぁくなった。

「そうかな?」とそれでもまだ不安気に言う浜路に信乃はさらに苦笑した。


しかし信乃が言った通り浜路が男に間違われることはもうないだろう。
仮に髪を短く切ってしまったとしても、着物の下からでも分かる、ふくよかな胸、くびれた滑らかな腰、肉付きの良い太腿がそこらにいるような女たちよりもよほど女らしいことを信乃は知っているし、よほど厚着をしなければ隠し通せるわけがない。

それは出会ったばかりの時とは明らかに変わっており(もちろん浜路は14の頃から良い体つきをしていたが)どこから見ても、誰から見ても、女でしかなかったのだ。

もう一つ変わったことがある。


春に祝言をあげ、夫婦として暮らし始めて1年がたったころ、浜路の時折見せる表情や仕草がとても変わったことに気づいた。
それは浜路が徐々に大人の女性になり始めていることを物語っていた。

もちろんそのようにしたのは、他の誰でもない、自分自身である。

そのことに優越感を感じていたといえば、嘘では、ない。



浜路の甘い香りのする濡れた髪に顔を押し付ける。
心地よい香りに、まるで自分が浜路を抱きしめているのではなく、自分が浜路に抱きしめられているような気分になった。

途端、無意識か、わざとか、信乃が白い手が浜路の着物のあわせにすッ、と入り込んでいた。
「きゃッ」と浜路が信乃の突然入り込んできた手と、その冷たさに驚き短い悲鳴を上げた。

それでもおかまいなしにスルスルと器用に帯を取り去ると、後ろからすくい上げるようにやんわりと乳房を揉みほぐした。

「あ…や…やだっ…し、信乃っ…!」
声を我慢しているのか、浜路は片手で口を押えた。

そこがいじらしくて、また可愛らしくて、もっと感じてほしくて。


こういう事は今まで何度かしたことがある。
いつもはどうしてもお互い緊張してしまい格好の悪い所を見せてしまうことがあるのだが、今日は何故だろう。

さほど緊張はしなかった。

初めて抱き合った頃よりも大きくなった乳房を両手で揉むたびに、浜路は気持ちよさそうに声を漏らす。
そしてさっと着物をはだけさせ、露わになった滑らかな背中に触れた。


「や…やめて……!!」


突然浜路の悲鳴に近い声が室内に響き、信乃は一瞬びくりとし固まる。


こんなにひどく拒絶されたのは初めてで、信乃は何とも言えない、とても申し訳なさそうな表情をする。
まるで子供が母親にしかられて身を縮ませるようだった。

もしかして、彼女はずっと自分を拒みたかったのだろうか…。

「あ…」と浜路が声を漏らす。

「ご…ごめん!私、信乃が嫌だったわけじゃないの!あの…、あ…明かり、消してないんだもの…」

へ?と信乃が情けない声を出す。

「だってこんな明るいところでやったりしたら、全部見えちゃうでしょ?私、そんなの恥かしい」

まるで蚊の鳴くような小さな声だった。
そういえば、と、まだ蝋燭の明かりを消していなかったことに気づく。
内心そういうことかと安心して蝋燭の火を消そうとしたが、その思考は浜路によって消されてしまった。

露わになった乳房を両手で隠しながら、まるでこちらを誘うかのように(もちろん本人はそんなつもりは毛頭ないのだろうが)流し目でこちらを睨み、顔を真っ赤にしている。
信乃は自分の中に何か熱が生まれたような気がした。

その姿はひどく扇情的で、恥かしくも自分の分身が昂ぶっていることが分かる。

「だ…だから、明かりは消してからにしよう?
信乃が嫌じゃなかったら、良かったら、このまま続けて」
もらいたい、と言おうとしたその言葉は、信乃が浜路の唇を塞ぐことによって消えた。
 


「ん…ふぁ…んんうっ…!」

そのまま乱暴に舌を突っ込み彼女の舌と絡ませる。
突然のことに身を固くする浜路を少しでも解してやろうと、まだ濡れている栗色の頭を撫でてやりながら、残ったもう片方の手で優しくその丸い乳房を愛撫する。

くちゅくちゅといやらしい音をたてながら、さらに口づけを深くする。
舌を吸って、どちらのものか分からないくらい混ざった唾液を飲む。
それでもどうしても、口の端から唾液は零れてしまう。
だがそのことには気づかないふりをした。

ただ、今はあらい息遣いの中にある小さな甘美に酔っていたかった。


先程からされるがままでいる浜路は時折甘い声と息を漏らしながら、信乃のたくましい背中に腕を回そうとしたが、この状況では押し倒されてしまうのでは、と察した浜路は甘い口づけに朦朧としながらも、必死に両腕で身体を支えた。

だが女の力とはなんと儚く弱々しいのだろう。

気が付いた時には既に遅く、浜路は信乃に組み敷かれていた。

自分の首筋を這う信乃の舌にゾクゾクとした、それは恐怖からくるものではなく、もっと違う快感に似た感覚に、このまま獲物として食われてもいいと思ったが、それと同時に何かを怖がった。

赤い花弁が、次々と浜路の首から胸元にかけて散らばっていく。

時折肌を甘噛みされ、歯形を残されてしまうが、それすらも自分は信乃に愛されているのだと感じてしまい(実際はそうだが)浜路は自分はこんなにも欲深く、浅はかなのかと自嘲した。


「あっ………!!」


反応を始め固くなった胸の頂を摘ままれようやく我に返る。
お願いだから明かりを消してと今更両手で顔を隠す。すると信乃がくすっと妖艶な笑みをこぼし、これまた色っぽい顔で言葉を返した。

「こういうのも悪くはないんじゃあないのかい?そんなに恥ずかしがらなくたっていいんだぜ?この明かりのおかげで普段は見えない所だってくっきり見えるだろうしさ」

そういうや否や、信乃は浜路の足首を掴むと大きく広げさせる。
途端浜路が顔を真っ赤にした。

「い…いやっ…やだ、そんな所見ないでぇ!」

浜路が泣きそうな顔で、必死に両手で其所を隠しながら訴える。

その仕草と表情がさらに信乃の性欲を掻き立てることを浜路はまだ知らない。

いつもは薄暗い中で行為を行っていたため、よぅく目を凝らさなければ見えない女の部分は明かりのおかげではっきりと見える。

もちろん信乃にとっては都合がよかったが、浜路にとっては拷問そのものだった。

信乃にじっとみられていると思うと恥かしくてたまらないのに、勝手に身体が反応して熱くなるのがわかる。

視線のせいかさらに濡れそぼってトロトロと甘い蜜を垂れ流すそこは物欲しげにヒクついている。

何とも旨そうだった。
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