佐鳥姫の憂鬱

□佐鳥姫の憂鬱 第3章
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ゆるいウェーブを描く長い茶髪は艶やかで、茶色の瞳は強さと美しさを兼ね備えている。

聡明な人。先生が遊びで付き合うような女の子とは違う。綺麗な大人の女性。

「灯華?」

彼女の後ろに姿を見せたのは夜間瀬先生だ。彼もまた私を認めると、わずかに眉をひそめる。

急激に襲われる疎外感に耐えきれず、玄関を飛び出そうとするが、足が震えて動けない。

それでも、帰らなきゃと身体を反転させようとした時、灯華と呼ばれた女性を押しのけた先生が走って私に向かってくる。

「佐鳥くんっ」

夜間瀬先生は私の手首をつかむ。まるで帰らなくていいと言われてるみたいで安堵したいのに震えがおさまらない。

「先生…」

「いいから」

先生はそう言って灯華さんを振り返る。

「用が済んだなら帰ってくれ」

「ふーん、佐鳥華南には甘いのね。あなたの夢を叶えるかもしれない御簾路のご令嬢だものね。利用価値がなくなるまでは優しくするわよね、当然」

彼女が挑戦的に冷ややかに言うと、私をつかむ彼の手に力がこもる。

痛い、と思ったけれど、殺気だった先生の背中を見たら声が出ない。

「余計なことばかり言ってないで帰るんだ」

「帰るわよ、もちろん。またデートしましょうね、大志」

灯華さんは魅惑的な笑みを浮かべたまま赤いハイヒールを履くと、私と先生の前を通り過ぎて帰っていく。

彼女が勢い良く押したドアが閉じた途端、先生は内鍵をかけ、私の手を引いた。


【第3章 完】
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