佐鳥姫の憂鬱
□佐鳥姫の憂鬱 第3章
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____恋の形は一つではないと教えてくれたのはあなた。
「華南、夏休みは家に帰るー?」
研究室から夜間瀬先生が出ていくとすぐ、デスクにじっと顔を伏せていた深春が顔を上げて尋ねてくる。
夏休み前のゼミは今日が最終日だ。
結局薬学自主研究ゼミナールの受講生は増えず、私と深春、柚樹くんの三人のまま夏休みに突入する。
「私はたまに。ほとんどマンションにいるわ」
「そうなの?私はずっと親のところ。華南がいるならマンションにいようかなぁー。ねー、柚樹は?柚樹は夏休みどうするの?」
パソコンとにらめっこしている柚樹くんに、深春はそう尋ねる。
「え、なんて?」
聞いていなかったのだろう。彼はきょとんとする。
「私がせっかく大事な話してあげてるのにー。華南は夏休みもずっとこっちにいるんだって。柚樹はどうするのかなって話してたの」
「あ、華南はこっちなんだ。俺も特に用事ないから、一緒に勉強できるといいよな」
「はー?なにそれ。遠回しに図書館デートに誘ってるの?海ぐらい誘いなよっ」
「海っ?華南は海とか興味ある?」
柚樹くんはわずかに赤くなりながら、海に興味なんてないだろう?という目をしながら尋ねてくる。
だから私も期待に応える。
「ないわ」