佐鳥姫の憂鬱
□佐鳥姫の憂鬱 第4章
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_____君はいつも俺の側にいた。
灯華からのランチの誘いのことはすっかり忘れていた。だからマンションを出たところで彼女にばったり会った時は驚いた。
いや、俺を訪ねてきたのであろう彼女を見て驚いたのだ。
「大志、これからお昼?良かったら一緒に食べない?」
何食わぬ表情で近づいてきた灯華は優雅に髪をかきあげて首を傾げた。そうすることで男心をくすぐっているつもりなのだろう。
良かったら、などと言うが、彼女の笑わない目を見たら断ることなど出来ないのだと思った。
「ご主人は?」
「主人に送ってもらったの。旧友に会うって言ったら、長く続く友人は大事にした方がいいって」
「ずいぶんと理解のあるご主人だな。せいぜい大事にしたらいいよ」
キーホルダーをポケットにしまって歩き出すと、灯華は嫌味なほど真っ赤なハイヒールをカツカツと鳴らしながら追いかけてくる。
「大志、車は?」
「君を乗せる車は生憎ないよ」
そう答えると、灯華は思い切り仏頂面をしたが、俺はそのまま横断歩道を渡り、彼女が嫌いなファミリーレストランへ向かった。
伊江内灯華は生まれながらのお嬢様だ。
学生時代からおしゃれなレストランやカフェに慣れていて、雑多な雰囲気のレストランは好まない。
怒って帰るかと多少期待したが、予想は裏切られた。