佐鳥姫の憂鬱
□佐鳥姫の憂鬱 第5章
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_____一人で苦しまないで。
「七五三田くんの前で迂闊なことを言うと佐鳥くんの都合の悪いことになる。君だって講師と生徒の交際がタブーだってことはわかるだろう?」
華南の発言にあきれて図書館へ背を向けて歩き出す。
そして迷わず七五三田を置いて俺についてきた彼女へそう忠告する。
「それは交際してくれると言ったんですか?」
足を止めて華南を無言で見下ろす。
彼女の一途で前向きな恋情を抗うことは、どんな言葉を持ってしてもできない。そんな気持ちにもなる。
「……佐鳥くん、俺はかつて君に会ったことがあるだろうか」
手元のアイスコーヒーへ視線を落とす。
初めて会ったのは研究室でのことだ。
その確信はあるのに、妙な感覚に襲われた時、彼女は学生服を身に付けていた。
「はい。あの日の先生はひどく具合が悪そうで。覚えていないのも無理はありません」
「あの日とは?」
「高校の卒業式です。だから私はあの日以降、あの時間の電車に乗ることはなくなって、先生に会うことはありませんでした」
記憶を辿ろうとする。しかしすぐに諦める。出来もしないことに時間を割くのは無駄でしかない。