非才の催眠術師
□recollect 4
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ただ漫然と過ごすだけの日々は終わった。朝日を受けて目を覚まし、月明かりに癒されて眠る夜は心地よく。
ミカドとたわむれる休日があるのは、仕事に従事する日があるということ。
あの日にかえりたいと思う気持ちはまだ心の奥底にひそんでいるけれど、過去と現在、時間の流れが複雑に絡み合う毎日はもうやって来ない。一日一日前に歩む私は時間に惑わされることなく生きていける。
そう思わせてくれた彼がいる。そして彼は私を優しく抱きしめてくれる。
「ミカド、本当にリン君なの?」
ベッドに仰向けになり、ミカドを胸の上に乗せて頭を撫でる。彼は私の頬に頭をすり寄せるだけで何も言わない。
「ミカドには不思議なことが起きたんだね。ミカド、ありがとう」
またリン君に会いたい。
それを望むことはいけないことだ。真咲さんが教えてくれた。リン君の幸せはミカドで居続けることだと。
「ずっと側にいてね、ミカド」
そう言うと、ミカドは約束するみたいに私の唇の端にキスをする。ちょっと遠慮するみたいでおかしい。
ミカドを抱いたまま体を横に向ける。
日差しを受ける机の下、暗がりにきらりと何か光った気がして、私はベッドから身を乗り出す。
「ミカド、見て」
机の脚の方を指差すと、軽やかにベッドから飛び降りたミカドがそれに鼻を寄せる。