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□私の声が破滅を呼ぶまで
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母を恨んでいる。
望んでもいないのに勝手に僕を産み落としたから。そのくせ、無責任なことに僕を一人残して死んだから。

父を憎んでいる。
こいつに関しては人間の最底辺の下衆だと思っている。父親だとは微塵も思ったことはない。

それ以外の人間に関心は持っていない。
ただ、たった一人を除いて。








「志望校を変えたぁ?」


私と孫兵の部屋に拍子を抜かした声が響く。
なんで、どうしてまた、と目の前の人物が迫り来る。彼女が驚くのも無理はない。彼女は私と孫兵の家庭教師であり、私はつい先日までは某私立の女子高に行きたいと密かに思っていたことを彼女に伝えていたから。


「き、北石先生」

「あんなに憧れてた学校じゃない!やっぱり親御さんに反対されたの?でも、望美ちゃん、反対されても諦めないって言ってたのにどうして…」


北石照代先生は唯一、私の本当の志望校を知っている人物だった。
誰より私の夢を応援してくれていたし、意気込んで勉強も根気よく教えてくれた。
そんな彼女をこんな形で裏切るのはとても心苦しい。本当に申し訳なく思っている。けれども孫兵にも決意を伝えてしまった以上、もう今更進路を変える気にもなれなかった。


「ねぇ、一体どうしてなの。私に話して頂戴」


納得いかない、といったような北石先生の顔が迫ってくる。
北石先生には包み隠さず話さなくてはいけない。私のために尽力してくれたのだから。
少し間を置いてから私は重い口を開いた。







「それってちょっとおかしいわ」


開口一番に北石先生の鋭い一声が飛んでくる。
眉間に皺を寄せた彼女は志望校を変更した経緯を聞いても尚、納得がいかないようだった。


「これでも私なりに考え抜いて、出した結論なんです」

「私なりに?」


私の言葉に北石先生は顔を顰めた。


「それは違うわ」


思いも寄らない北石先生の否定的な言葉に私は反射的に顔を上げた。
先生は見たこともないくらい真剣な表情で私を見据えた。慣れない剣幕に私は無意識に後ずさる。


「それは望美ちゃんが考え抜いて出した結論じゃない。自分の志望校を孫兵くんに否定されて、自信がなくなったんでしょう。それでもまだ諦められないくらいの憧れを持っていたくせに、結局は孫兵くんに言いくるめられちゃってるじゃない」


北石先生の強い眼差しが全身に刺さる。
的確に攻めてくる北石先生の言葉に思考が止まる。
言いくるめられた?私が、孫兵に?違う。そんな訳がない。だって、自分で納得して、仕方が無いって。ーー仕方が無い?


「自分の将来のことなのよ。望美ちゃんこれから何を決める時も孫兵くんの言う通りにするの?孫兵くんが無理って言ったら全部無理なの?やってみないとわからないじゃない。このままじゃずっと孫兵くんに頼って生きていくことになるわよ」



図星だ。返す言葉が何一つ出てこない。
北石先生は私の痛いところを突く。
わかってる、そんなこと、私が一番わかってる。でも、仕方が無いじゃない。実際、私は孫兵がいないと何もできないんだから。私は孫兵みたいに完璧な人間じゃない。自分で正しい道なんて選べない。


「よく、思い出して。どうして望美ちゃんがあの学校に行きたかったのか。どうして家から出て寮生活をしようと思ったのか」


私の肩に北石先生は手を添える。
北石先生の言葉が頭の中で渦を巻く。
どうして私があの学校に行きたかったのか。どうして家を出たかったのか。

ーー変わりたかったから?

自分のことすら自分で決められない、そんな自分に嫌気がさしたから。こんな自分を変えたかったから。変わるきっかけが欲しかったから。




「望美ちゃん、自立しなさい」



その一言で奥底に仕舞い込んでいたあの時の決意が蘇る。
そうだ。私は、孫兵に甘えたままでいる自分から抜け出したかった。気付かないうちに貼られてしまったあのレッテルを剥がしたかった。

誰も頼る相手がいないなかで、証明したかったのだ。
私は一人でも生きていけることを。


「‥‥北石先生」


今更進路を変更することが大変なこともわかってる。
両親に迷惑かけることも、私を思って導こうとしてくれた孫兵を顧みないことも。
全部、わかってる。でもーー。



「私、諦めません。今までどおり勉強を教えて下さい!」
















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