僕等の嘘つきHONEY

□無脳
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「へ、へへ兵ちゃん、お、お話があるんですけど・・・・」
「何?」


パソコンで何やら色々弄っていた手を中断させて兵太夫は面倒臭そう振り返る。
彼が作業していた画面上には何かの設計図らしきものが浮かんでいた。
その複雑そうな設計図をみて、私は無意識に身震いをした。
また、何か恐ろしい凶器を作っているのだろうか・・・・殺人マシーン?


「あの、ですね、その」
「何?言いたいことがあるなら早く言って」


なんでこの人はいつも、こんなに偉そうなんだろう。
今にもキレそうな雰囲気だったので手短に要件だけを言う。


「そそそ、その、私、兵ちゃんのこと、嫌いにな「は?」ひ、ひぃ」


最後まで言えずに遮られてしまった。
そのたった一言があまりにも冷たくて思わずびくん、と身体が反応する。
細めて疑視していた目の瞳孔を全開させた。死ぬかと思った。


「え?何?幻聴が聞こえたんだけど。もう一回言ってくんない?」


何事を無かったように兵太夫は言った。
いや、絶対に聞こえていたと思う。絶対に。幻聴ではない。
しかし兵太夫から放たれる威圧が怖すぎたのでもう一回言うことにした。


「あ、は、はい、あの、あのですね、私、兵ちゃんのこと嫌いに「あ゛?」ひ、ひぃぃ、っ」


一気にドッと兵太夫の周りから殺気が放たれる。
兵太夫はゆっくりと立ち上がって無表情のままジリジリと私に近付いてきた。
私は涙目になりながら後ろに後退る。
え、な、何、兵太夫怖すぎるんですけど?私、殺される?命日?
彼氏に殺されるとか冗談きつくないですか?


「ねぇ」
「ギャアッ」


詰め寄られてついに逃げ場がなくなり背中が壁と合わさる。
ポンッと肩を掴まれて奇声を発する。
掴まれている力が段々と強くなり、兵太夫の爪が肩に食い入る。
痛みに顔を歪めると兵太夫は少し得意げに笑って、またすぐに怖い無表情になった。


「は?嫌い?千香が?僕のことを?千香のくせに何言ってんの?」
「ご、ごめ、ごめんなさ、」
「え?謝るってことは悪気があったってこと?千香の分際で?」


ごめんなさい、と謝っても兵太夫は耳を傾けようとしない。
周りの空気がどんどん重くなって息苦しい。
え、誰だよ。兵太夫に嫌いって言えって言った奴。あ、立花先輩か。
立花先輩には逆らえない。仕方ない。でも兵太夫にも逆らえない。
この状態、一体、私にどうしろというのだろう。


「僕のこと嫌いになるとか、許されるとでも思ってんの?許されるわけないだろ、ぶわぁか」


ぶ、ぶわぁか、って。
そんな小学生みたいな言い方。
けれども真正面から言われると結構、精神的ダメージがくる。
特に兵太夫のゴミでも見るような視線が頂けない。
私、なんでこの人と付き合ってるんだろう、と今更ながら不思議に思う。


「おい、話聞いてんの」
「ギャアッス」


肩に食い込む力がより一層強くなって飛びのく。
いきなり何するの。絶対に跡つきましたよ、コレ。昔から感じていたけれども彼は加減というものを知らない。
自分のおもうままに行動するタイプの人間だ。


「前から言ってるけどさぁ、お前、自分が誰のものかわかってんの?」
「え?私は私自身の「死にた「もっ、勿論、兵太夫様のものです」
「だよね?」


咄嗟に答えた私を確認するようにして兵太夫は溜息をつく。
いやいやいや、兵太夫さん?溜息をつきたいのはコッチなんですけどね?
もう私、発言権ないですよね?基本的人権とかないですよね?貴方のせいで。
なんてことは口が裂けても絶対に言わない。
何故なら私の明日が訪れなくなるからである。


「なのに僕のもののくせして、立場をわきまえない発言をするってどういうこと?反抗期?」
「違いま「へぇ、反抗期なんだ」



人の話を聞け!!!!!
私、今否定しようとしましたよね?
違います、って言おうとしてましたよね?

ならば、と言って兵太夫はにこり、と笑って私の耳に顔を近づけてボソリ、と呟いた。



「なら、もう一度お前に叩き込まなきゃならない。自分が誰のもので、自分が誰のために存在しているのかを」



その低い声に身体が震えるのが自分でもわかった。
そして彼のそれはもう、愉しそうな顔を見て、私は咄嗟に身の危険を感じ取った。
ここはもう素直に嘘だと明かした方がいい、そう私の本能が叫んでいた。
自分の身が何よりも大事。
この際、立花先輩との約束など、どうでもいい。


「へ、兵太夫、じ、実は嘘なの」


力の限りに呟くと、一瞬、兵太夫の動きが止まって、不愉快そうに私に顔を向ける。
嘘、ってどういうこと。
機嫌が悪そうに冷たい声で彼は言い放った。
素早く事情を説明し、彼の怒りが収まってくれるのを待つ。


しかし、現実はそうも甘くない。




「は?お前、いつから僕に嘘つけるような御身分になったの?」



笹山兵太夫、という男はそんな簡単に許してくれるような甘い男ではない。


「あ、いや、その」
「それに立花先輩の言うがままにされて。お前は僕のものなのに」
「ご、ごめんなさい」
「それ、さっきも聞いた」


呆れたように兵太夫が言った。
その間にも私はどうにかしてこの状態を回避すべく、逃げ道を探していた。
そんな私に兵太夫はすぐ気づき、逃がさない、というばかりに壁に背中を押し付けたまま、私の手首を掴んで、無理矢理、私の両脚のあいだに自分の脚を滑り込ませた。
もう、逃げ場はない。
兵太夫は絶対に怒っている。
恐る恐る顔をあげると冷笑した兵太夫と目が合う。



「いけない子だ」



一言だけ。たった一言だけ妖艶にそう言って、兵太夫は飲み込むかのように私の唇を覆った。


あぁ、本気で怒らせてしまった。


うっすらと目を開けると獣のような目をした兵太夫と目が合う。
避けるようにして目を背けると、より一層、口付けが深くなる。
多分、彼の思うままにさせないと彼は許してくれないだろう。



今の私にはただ彼を受け入れる、という術しか持ち合わせていない。





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