僕等の嘘つきHONEY

□無邪気
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「お、千香、三治郎来たぞ!!!」
「了解!!!団蔵、準備はいい?」
「フッ、抜かりなく」
「全然かっこよくないんですけどww」



三治郎にドッキリを仕掛けようぜ!!!
と団蔵が持ちかけてきたのは昼休みのことだった。
え?ドッキリ?と返した私に団蔵は子供のように目を輝かせて、言った。


『三治郎って、いつもお前だけには優しいし、ニコニコしてるだろ?だから違う一面を見たい、とか思わねぇ?』
『違う一面・・・・?』
『おう、怒ってる顔とか、焦ってる顔とか』
『・・・・・見たいかも』


なんてやり取りがあり、私と団蔵は三ちゃんにドッキリを仕掛けることにした。
三ちゃんには、悪いけど彼の笑顔以外の表情にとても興味があったのだ。
いつも優しくてニコニコしてる三ちゃん。
そんな彼しか私は知らない。

教室に向かってくる三ちゃんを扉の陰に隠れながらひっそりと待つ。
何も知らない三ちゃんは躊躇いもなくドアに手をかけた。


「三ちゃんっ!!!!」
「うわっ、千香?」


驚いたように三ちゃんは後ずさって、私はその胸に飛び込んだ。
後ろによろけながらも三ちゃんは、しっかりと受け止めてくれた。


「もしかして待っててくれたの?先に帰っていいって言ったのに」
「うん!!!実は三ちゃんに言わなくちゃいけないことがあって」
「言わなくちゃいけないこと?」


何?と三ちゃんは首を傾げた。
キョトンとした三ちゃん、マジ天使。ーーじゃなくて、団蔵と計画した通りに、私は用意されていた台詞を言った。


「あのね、私、三ちゃんと別れたいの・・・・」




「え・・・・・?」




しおらしく下を向いて私は言った。
自分は女優に向いているんではないだろうか。
と言えるほど完璧だったと自負してもいい。
その証拠に目の前の三ちゃんはいつもの笑顔のまま動かなくなってしまった。


「え、千香、ど、どうして」
「ごめんね・・・・」


この台詞の後に団蔵が出てくる筈。
そういう設定になっている。
いつもと変わらない調子を保とうとしている三ちゃんだけど、その目には明らかに動揺が浮かんでいる。


「よぉ、三治郎」


片手を挙げながら団蔵が私の隣にくる。
うん。計画通り。
団蔵が登場すると、三ちゃんは表情を一気に豹変させて、笑顔でもない、ただの無、無表情になって、今までに聞いたことがないくらい冷たい声で言い放った。


「は?何、お前?何、千香の隣に立ってんの?離れてくれない?千香が穢れる」
「ちょww三治郎さんww俺w菌扱いww」
「・・・・・ふざけてんの?」
「すいませんでした」


90°直角に腰を折り曲げて団蔵は勢いよく頭を下げる。
ちょっww何やってんのwそこは恰好良く登場するって設定でしょうが。
少々、計画が狂ったが気を取り直して私は三ちゃんに向き合った。


「ごめんね、三ちゃん。私、団蔵のことが好きになっちゃったの・・・・」
「え、な、なんで?なんでよりによって団蔵なんか・・・・」
「え?なんかって酷くね?」
「嫌だよ!!!千香!!!僕、別れたくない!!!」
「三ちゃん・・・・」
「え?無視?俺、無視ですか?」


三ちゃんはいつもの笑顔を崩して、私に抱きついた。
必死な三ちゃんを見て、私は無意識に顔が微笑むのがわかった。
いつも、笑顔で、ニコニコしている三ちゃんが、こんなに取り乱すなんて。
不謹慎だとわかっているのに、彼の違う一面を見ることができて、私は笑顔を隠すのに必死だった。


「さ、三治郎、そういうことだから悪いけどーー」


団蔵が言いかけた途端に三ちゃんは瞳孔を開いて、ゆっくり立ち上がった。
そのまま、団蔵へと歩み寄り、私に縋り付いていた三ちゃんとはまた一変して、怖いくらい無表情で団蔵に言い放った。


「お前、自分が何したかわかってんの?人の彼女奪っていいと思ってんの?千香は僕の彼女だよ?何なの?馬鹿なの?死ぬの?」

「え、は、え?さ、三治郎?」

「僕から千香を奪うなんて許されるとでも思ってんの?重罪だよ?死刑だよ?お前がここまで救いようのない馬鹿だとは思ってなかったよ」


豹変し過ぎた彼をみて私は狼狽えた。
団蔵なんてもう、白目むきそうだけど。
本当にこれは三ちゃん、なのだろうか?別人ではないか。
普段の笑顔で優しい三ちゃんなど、1ミリも感じられない。


「さ、三ちゃーー」


やっとの思いで彼の名前を口にすると、私の声に反射するように、三ちゃんは振り返った。
彼があまりにも勢いよく振り返ったものだから、私はびくん、と反応してしまう。


「千香」


私の名前を呟くように言って、三ちゃんは私に縋り付いた。
その力があまりにも強くて、私は驚いた。


「なんで・・・・?僕、何かした・・・?」
「三ちゃん・・・」
「団蔵に騙されてるだけだよ、あいつ顔だけだから」
「三ちゃん」
「僕の傍にいて」


弱々しく懇願する三ちゃんを見て私はたまらなくなってしまった。
気付いたときには口が動いていた。


「三ちゃん、ごめんなさい。嘘なの。私も別れたくないよ」


「・・・・え?嘘?」


弾かれるよう三ちゃんは顔を上げた。


「三ちゃんの違った一面を見たくて、団蔵とドッキリをしようとしたの」
「ドッキリ?」
「うん、ごめんね」


事情を説明して謝ると三ちゃんは黙り込んでしまった。
私は不安になり三ちゃんの顔を覗き込む。


「千香、僕、怒ってるよ」
「っ、ご、ごめんなさっ、」
「今までの中で、一番怒ってる」


三ちゃんに嫌われたかもしれない。
自業自得だ。でも、嫌、嫌われたくない。
そう思って顔を上げるといつもどおりの笑顔の三ちゃんと視線が合う。




「僕の違う一面が見たいんでしょ?」
「え、?」
「いいよ、見せてあげる」




三ちゃんは私の腕を無理矢理掴んで立ち上がった。
いつもの笑顔。笑顔なのに、何かが違う。瞳の奥には獲物を見つけたような彼が映っていた。


「僕はこれでも色々我慢してたんだよ?だけど千香に汚い僕を知られたくなかった。僕って本当は凄い貪欲なんだよねぇ」
「え、さ、三ちゃん?」
「でも千香が悪いんだよ?僕を怒らせるから」


熱が篭った視線で三ちゃんはそう言った。
何も言わせない、というようにそのまま教室から出ようとして、その際にチラッと団蔵を睨んで


「もし、次、同じことがあったらーーー団蔵、わかってるよね?」


吐き捨てるように言い残して三ちゃんは私の手を引いたまま教室をあとにした。


「詳しい事情聴取は僕の部屋でさせてもらうよ。いいね?」
「さ、三ちゃーー」
「見せてあげるよ、貪欲な僕を。勿論、千香だけにね」


普段とは全然違う挑発的な笑顔に私はただ、喉をならすことしかできなかった。




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