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□硝子に映える澄んだ白
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なんて健気で献身な娘なのだろう。

名前、君は今まで僕が見てきたどの女の子よりも心優しい素敵な女の子だよ。

愛情深い両親を失ってしまったあの日から、僕はずっと君を見守っていた。
それがあの両親の願いだったから。

名前、僕は一度だって君の前に姿を現した時はなかったけれど、何時だって君を想わなかった日はない。
今だって。
狡賢い継母と意地の悪い義姉たちに、こき使われて召使いのように扱われている君が憐れで仕方が無い。

でも、それも今日までだ。
そんな日々から僕が救いだしてあげよう。
だから、さぁ、涙を拭って。君に涙は似合わない。
僕に一等輝いた、素敵な笑顔をみせておくれ。


「……貴方は?」

「僕は雷蔵。君の魔法使いだよ」


魔法使い。日常離れした言葉に名前は大きな瞳を瞬かせた。
そう。僕は魔法使い。名前、君だけの魔法使い。
僕が君にとびきり素敵な魔法をかけてあげよう。
君を世界一、魅力的な女の子にしてあげよう。


「さぁ、立ち上がって。まずはドレスだね」

「ま、待って、私、お金なんか持ってない。ドレスなんて、そんな高価なもの、無理だわ」

「お代はいらないよ。……強いて言うなら、君の笑顔がみたいな」


名前の手を取って、力強く引く。
力の向くままに名前は立ち上がった。
名前が座り込んでしまう前に、僕は素早く杖を取り出して、魔法の言葉と共に、杖を振りかざした。

夜空に散りばめられた星屑を少々、戴いて。この世に一つしかない、とっておきのドレスを造りましょう。
髪は綺麗に結い上げて。妖精の羽飾りで束ねましょう。


「ほら、とっても綺麗だ」


鏡で名前の姿を映し出す。
思ったとおりだ。なんて、美しいお姫様。
やっぱり名前は、僕が知るどの女の子よりも一番、素敵な女の子。

鏡の前の名前は、自分の姿が信じられないようで、何度も頬を抓ったり、叩いたりしていた。


「仕上げはこれだね」


魔法の杖をもう一振り。
名前の美しい足の周りを煌びやかな光が纏う。
その後に形を現したのは、細かい細工の施された硝子の靴。
その透き通った透明感は、まるで名前の純粋で無垢な心を表したようだ。


「……綺麗。こんな素敵な靴、私には勿体無い、申し訳ないわ」

「これは僕からのプレゼントだよ。君のために用意したんだ。受け取ってくれると嬉しいな」

「でも、」


なんて慎み深い女の子なんだろう。
そんなところも全て引っ括めて僕は名前が好きだ。
でも、せっかくの贈り物。最初で最後の贈り物。
どうか、受け取って欲しい。君が幸せになるために不可欠なものだから。
君の幸せは僕の幸せだから。


そう、気持を込めて名前を見つめると、名前は申し訳なさうに承諾してくれた。
ありがとう、とっておきの言葉も添えて。


「準備は揃ったね。これで舞踏会に行けるよ」


君のその美しさならば、きっと王子も君を見初めるだろう。
そうすれば名前はこの国の王妃様。
沢山の愛に囲まれて、一生幸せに暮らせるだろう。

最後に、可愛い馬車を用意しよう。
君を無事にお城まで送り届けるように。
そして最後の一振りをしようとした時。


「待って」

「私の、願いことなんでも叶えてくれるの……?」


名前が真剣な眼差しで僕を見つめていた。
上げていた腕を下ろして、僕は名前に向かい合う。


「勿論だよ。君の願いならばなんだって叶えてあげる」


もっと美しいドレスが欲しいなら、もっと美しいドレスを与えよう。
もっと綺麗な靴が欲しいなら、もっと綺麗な靴を与えよう。
君は何を所望する?



「わ、私、貴方のこと、雷蔵さんのこと、好きになっちゃった!!」



だから私を貰って欲しい。
顔中を真っ赤に染め上げて名前は可愛らしいお願い事をした。
思いがけない未来に僕は驚いた。それと同時に心が激しく躍る。
誰よりも名前の幸せを願ってきたけど、まさかその相手に僕が選ばれるとは。
つられて僕まで赤くなる。
嬉しさと緊迫が混ざりあって、どうにかなりそうだ。
名前、君はやっぱり素敵で最高だよ!!


「その願い叶えましょう!!」


行き先変更。
お城は取り消し、目指すは魔法の国へ。
王子よりも魔法使いを選んだ女の子。
こんなにも可愛い女の子を王子などにくれてやるものか。

行き先を変更した馬車に乗り込むために、僕は名前に手を伸ばす。
僕の手を取った名前の笑顔は、一等輝いた。








硝子に映える澄んだ白
(硝子の靴は落とさない)

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