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□林檎の毒に浮かされて
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透き通るような肌の白さから彼女は白雪姫と呼ばれていた。


彼女の名前は名前。
幼い頃に父親を亡くしてから、この森に住んでいる。
自然が大好きで、とても心優しい女。
声がとても麗しく、その歌声はまるでカナリヤのようだ。
魔法の鏡が認めるほどの美貌の持ち主でもあり、聡明でもあった。

そう、名前。お前のことならば。
俺は何だって知っている。

一月前から、小人達と暮らし始めていることも。
この国の王子にその歌声を聴かれて、見初められたことも。
俺はお前のことならば何だって知っているんだ。
お前が産まれた日から、来る日も来る日もこの鏡でお前の姿を映しているのだから。
だから俺に隠し事をすることなどできはしない。
だって名前。俺はお前以上にお前のことを知っているのだから。

広い深い森の中でただ一人。
たった一人で暮らしている名前。
けれども名前はその孤独を深く気になど止めてはいなかった。
人間は名前のみだったけれども、この森には人間以外の生物が多く存在する。
名前は何時もそれらと触れ合って暮らしていた。
名前は多くの愛情に包まれて暮らしいた。


けれども忘れるな。


その擬い物の愛情が成り立っているのは俺の懐がでかいからだ。
俺の寛大なる心遣いがあってこそ、型どられているものなのだ。
だからどうか忘れないで欲しい。
名前は決してお前達のものなのではない。名前は、みんなの名前などではないのだ。
今までは俺がお前達との交流を許していただけであり、お前達との間の愛情など、あってはならない。

そう、今までは俺が許していただけ。

でも名前。
いけねぇな。いけねぇよ。
最近のお前は少し調子に乗りすぎた。
自分が誰のものかを忘れて、俺以外の人間と関わり過ぎた。
動物たちは許せたけど、名前、人間は駄目だ。人間と関わることだけは許せない。
人間と愛を育むことだけは、絶対に許さない。


だから、名前。


そろそろ俺のもとへおいで。
動物たちとの触れ合いはもう充分楽しんだだろう。
擬い物の愛はもう飽きるほど浴びただろう。
なぁ、名前。早くおいで。
そろそろ一緒に暮らそう。俺はずっと待っていた。機はもう充分に熟した。俺はもう充分、待ってやっただろう?
でも、もう我慢ならないんだ、名前。
お前の純潔を他の人間に汚されることは何よりも我慢ならない。
幼い頃からずっと見守ってやったというのに。
お前が一人きりになってしまった時も悲しまないように、涙しないように、尽力してやったというのに。
ずっとお前を守ってきたのは俺だというのに。
これではお前の父親を消した意味がない。
お前は俺だけを頼り、俺の愛情だけを受けていればいい。
他には何もいらない。


「さぁ、そのまま呑み込んで」


だから、名前。
早くその林檎を呑み込んで。
その焼けるような、燃えるような、真赤な林檎を呑み込んで。
大丈夫。心配はない。殺したりなどはしない。
俺がお前を殺せるはずがないだろう?
ほんの少し甘い罠を仕掛けただけだから。
ほんの少し毒を含ませただけだから。
大丈夫、死にはしない。
一瞬だけ、身体が麻痺するだけ。一瞬だけ、気を失うだけだ。
大丈夫、問題はない。




ただお前が俺だけを愛すようになるだけだから。













林檎のに浮かされて
(それは愛の媚薬)


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