「あぁ!!!!またこんなに散らかして!!!!」 「ゲッ、ママ」 「誰がママだコラ」 部屋のドアを開けた瞬間、ドサドサと音をたてて教科書類が流れ落ちる。 部屋の前に立っている彼はその崩れゆく紙の束をやるせない、といった表情で見つめていた。 対して私は例えるならゴミ箱と呼んでもおかしくはない部屋の真ん中に佇んでいた。 「あれほど片付けろって言ったじゃないか!!!一週間前に掃除したとき、これからはちゃんと掃除する、って約束したろ!?」 「した・・・・っけ?」 「したよ!!!!!」 あー、もう、食べたお菓子のゴミもそのままにして。 ブツブツと小言を言いながら、彼ーーー伊助は、散らかっているゴミを片付け始める。 これだから、私の部屋に伊助を呼ぶのは嫌なのだ 面倒くさがりやの私にとって、掃除といのは一つの大きな試練であった。 伊助がどんなに部屋を綺麗にしてくれても、一日も経てばすぐにもとのゴミ屋敷に戻ってしまう。 少し荒れているほうが落ち着くのだ。綺麗過ぎると逆にソワソワしてしまう。 対して伊助は大の綺麗好き。 あらやる所をピカピカに磨きあげていないと済まない性格だ。 そんな真反対な私達だから、お互いを部屋に呼ぶ度にちょっとした喧嘩が始まる。 「いいよ、そのままで。今日は掃除しにきたんじゃないでしょ。テスト勉強するために集まったんだから」 「こんな部屋じゃ勉強なんてできないよ」 「こんな部屋って、失礼だなオイ」 伊助は鞄の中から、ゴソゴソと何かを探したと思うと、エプロンと三角巾、そしてなんとどこにそんなスペースがあったのだろうか、箒を取り出した。 その姿はまるで家政婦のようだ。 「ちょ、ま、さ、か、お掃除を始める気・・・・?」 「当たり前。こんな部屋で生活したら雛が病気になっちゃうでしょ」 「なんないって〜」 「なるよ」 そう断言して、黙々と伊助は掃除を進める。 手始めに床に散乱している衣類を、そして大きさがバラバラになった本棚を片付ける。 てきぱきと進めていく伊助を私はただじっと見つめていた。 ・・・面白くない。非常に面白くない。 せっかく久しぶりに二人きりになれたというのに、伊助は掃除に夢中だ。 私のことなんか、ちっとも気にしてない。 不満は募るに募って私の心を沸き立てた。 「掃除なんかしないでよ、私は散らかっていたほうがいいの」 「またそういうこと言って、女の子なんだから身の回りくらい綺麗にしなさい」 「伊助にそんなこと言われる筋合いない」 「あるよ、一応、彼氏なんだし」 そう、彼氏なのだ。 こんな磁石の極みたいに真反対の私達がなんで付き合っているのかは当人でも不思議なくらい。 でも彼氏だからこそ、私は二人の時間を大切にしたいのに、掃除って!!掃除って!! 「伊助」 「何」 「いーすーけー」 「何だってば」 邪魔だから退いて、と背中にもたれかかった私に向かって言う。 やっぱり掃除をしながら。 「邪魔って、仮にも彼女なのに」 「・・・」 「む、無視、だと」 もはや反応もしてくれない伊助。 なんなの?なんなのなんなのなんなの!!?? 無視?無視ですか? 別に私、掃除してくださいとか頼んでないんですけど? なんなの?怒りましたよ。私、怒りましたよ?もう許さん。 「伊助」 「・・・・」 ・・・・自分の世界に入っておられる。 多分、隕石でも落ちない限り、現実に戻ってこないだろう。 そんな伊助に爆弾を落としてやろうと思う。 純粋な伊助にとっては隕石に近い効力があるだろう。 「伊助」 「・・・・・」 「伊助」 「・・・・」 「伊助ってば」 「ちょっと雛、黙っーー」 「好きだよ」 「・・・・・・・え、」 何を言われたのか分からないとでもいったように、驚いた顔をしていた伊助だったが、すぐに意味を理解してみるみると顔を紅くした。 「ば、馬鹿!!!!」 「馬鹿!?馬鹿ですと!?」 「い、い、いきなり何言うんだよ!!!」 「思ったことを言っただけだし」 「た、タイミングがあるだろ!!!」 効果は覿面。 先程とは豹変し、あきらかに動揺しまくっている。 伊助があまりにも顔を紅くして叫ぶので、言った私、本人も急に恥ずかしくなってきた。 「と、トイレ」 「は、はぁ!?」 「トイレだってば!!!!」 「え、ちょっ、オイ!!!!!」 自分の発言が今更ながら恥ずかしすぎめ居た堪れなくなり、その場を離れようとした。 勢いよく立ち上がり、部屋のドアを目掛けて走る。 ドアを開けようとした瞬間、腕を掴まれて、体が反転した。 そのまま、伊助の胸のなかに倒れ込み顔をあげると、一面に広がる彼の顔。 え、えええ、え、この状況って、ま、さ、か 今、私、伊助とチ、チューしてる!!?? 瞬時にこの状態に頭が反応して、伊助から離れようとするが、伊助、ママのくせして、力が強い。 混乱して、恥ずかし過ぎて、死ぬ、そう悟ったときにやっと解放される。 顔が離れるとともに唇に微かに残る感触。 「、雛が悪いんだからな、い、言い逃げなんてするから」 俯きながら真っ赤な顔で伊助がボソリと呟いた。 私は固まったまま、動けない。 そ、そんなピ、ピュア過ぎる伊助がこんなことするなんて、し、信じられない。アンビリバボー 目の前にいる伊助が本当に伊助なのか疑視する。 え?伊助?伊助なの?ママ? え、誰? 「、っ、ト、トイレ!!!!!」 私の視線に耐えられなくなったのか、猛スピードで走って伊助は退出していった。 廊下からは、うわぁぁぁああ、という声にならない叫び声が聞こえる。 ああ、伊助だ。伊助だわ。 普段通りの反応に何故か安心した。 それと同時に私は反省した。 心のノートに書き留めることにする。 伊助はナメてかかると、仕返しをしてくる、 けれどもやっぱり反応は可愛いな、と。 可愛い仕返し (たまには少し強引に) - |