色は匂えど

□すべては世界の裏側で
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「おい、どけよブス」
「お前がどけよカス」
「いや、お前がどけデブ」
「いや、お前がどけよ不運」
「ふ、不運は関係ないだろ!!!!体質なんだよっ!!!!!!」
「耳元で叫ばないでくれる?マジうるさい。マジ不愉快」
「っーー!!っとに、てめぇは可愛くねぇ女だなっ!!!!」








あぁ。やってしまった。またやってしまった。今日でもう何回目?今月だけでもかなりヤバイ。
違う。違う。違うんだよ。本当は「あ、邪魔だった?ごめん、いまどくね」って言うつもりだったの。カスとか、そんなの、本当は違うんだって。本当の私はあんな野蛮な女じゃないのよ。コーヒーにお砂糖10杯入れたようなすいぅーとな乙女なの。違う、違うんだって。誤解しないで。


「はいはい、反省会乙」


放課後教室で私はもう日課となってしまっている、恒例の猛反省会を行っていた。
一日が終わる度に、自分の愚行を思い出しては嘆く。まぁ、何と言ったらいいのか、自分で言うのも情けないが、不憫でみっともない姿だと思う。


「最悪だよ!!もうっ!!!!どうしていつも余分なこと言っちゃうの!?この口は!!ねぇ、なんなの?処すよ?ねぇ処していい?」

「勝手にしなさいよ、あんたの口なんだから。私は痛い思いしないし」

「ぶわぁぁん!!ユキが冷たい!!私がこんなに落ち込んでるのに!!可哀想でしょ?慰めてよ!!」

「……………うざ」


吐き捨てるように呟いてユキはメイクを再開した。意識は手前の手鏡に集中しており、私のほうなど見向きもしない

ちょ、お姉さん?ユキさん?わたし、ここ、いるよ?無視しないで?
なんなの?何?自分は全然問題ないから他人のことはどうでもいいの?なんなの?自分、不運委員のメガネと上手くいってるから?幸せなの?リア充なの?爆発するの?年下好きなの?年下キラーなの?


「全部口にでてるわよっ!!!」
「っぐ、ギャッス」


ユキ様のモデルのような長い脚が勢いよく綺麗に私のみぞおちにヒットする。何とも言えない嘔吐感がする。口の中が酸っぱい。

ちょ、死ぬ、まじで、お腹は勘弁、川西の赤ちゃん産めなくなっちゃうじゃないのよぉ。

未来の我が子(が宿る予定)のためにお腹を摩る。肋骨は……………よし、折れてない。


「雛、あんた黙ってればまぁまぁ見れなくもないんだから、余計なこと言うのやめなさいよ」

「……………え」


ユキが少し赤くなった顔を隠しながら言った。
え、見れなくもない→見れる→可愛い?


「可愛い?私って可愛い?ねぇ!!」

「……………そこまで言ってな」

「可愛いの!!??私が!!??」

「…………………………まぁ」

「!!!!……………ユキ!!」


お互いの目と目が合う。
感動に噎び、ユキの両手を握る。私達の間の友情が更に深まった気がした。

でも



「川西は可愛くないって言っだもぉおん!!ぶわぁぁあん!!好きな人にブスっでいわれだぼぉお!!」

「…………………………うざ」










ああ、やってしまった。今日もやってしまった。違う。違うんだ。本当は「ごめん、ちょっと通してくれる?」って優しく言うつもりだったんだ。決してデブとかブスなんて言うつもりじゃなかったんだ。だってあいつブスなんかじゃないし。どっちかって言えばか、かわ、可愛いほうだし。確かにユキとかトモミみたいに完璧なプロモーションってわけでもないけど、僕は別に、女の子は少しふっくらしてたほうが、健康的でいいっていうか、いや、こんなことを言いたいんじゃなくて、僕は今、


「後悔してるんだよ!!!!!!」


突然叫び出した僕に、隣で居眠りしていた三郎次が飛び起きた。
本当に驚いたのか「うわぁ、どうした、地震か!?」なんてほざいてる。地震なわけあるか。馬鹿。


「どうして、いつも突っかかるようなことしか言えないんだ僕は!!!!こんなんじゃ本当に嫌われるよ!!」


いや、もう嫌われてるかも………。

絶望的な考えが頭を過る。血の気が引いたように一気に顔が青くなった。三郎次が「おま、斜堂先生になってるぞ」とか言ってたけど、そんなの耳に入らなかった。


「絶対に傷付けたよな……………」


なんたってブス、デブって連呼してしまったし。女子が言われたくない言葉の中でもかなり上位にはいる言葉をセレクトしてしまった。確かにあいつだってカスとか言ってたけど、あいつは女で、僕は男だし、ほんとに情けない。


「左近、んな落ち込むなよ。相手はあの山田だぜ?小さいことなんか気にしねぇよ」


三郎次が憐れんだように慰める。

違う。三郎次は何もわかってない。
確かに山田は他の女子に比べて少しがさつでうるさいところがあるけど本当は他の女子より女子らしくて、傷つきやすいんだ。僕は知ってる。


思い詰めたように溜息をついてみせると、見かねた久作が口を開いた。


「そんなに気を落とすことないさ。中学のことからの仲なんだろ。山田だって左近のことぐらいわかってるよ」

「……………そうかな」

「そうだとも」

「そうか……………そうだよな、うん」


そうだ。今日に限ったことじゃない。
僕らがくだらない口喧嘩をすることなんて毎日のことだ。山田だって僕が言ったことが本意じゃないことぐらいわかってくれてるに違いない。長い付き合いなんだ。冗談の通じない相手なんかじゃない。僕だって山田の暴言なんてなんとも思ってない。きっとお互い様だ。




ん?いや、待てよ。



「駄目だ!!!僕、可愛くない女って言っちゃったんだぁぁあ!!!!あれは駄目だ!!取り返しのつかないことを言ってしまった!!!!おしまいだ!!!!」


「…………久作」
「俺はもう知らん」






(川西に嫌われてたらどうしよう)
(山田に嫌われたら生きてけない)







すべては世界の裏側
(心に秘めたこの愛を)












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