色は匂えど

□その暖かさが心を満たす
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「陣内さん、陣内さん」


食事を済ませ、風呂からあがった俺を待ってましたといわんばかりに待ち構えていたのは最愛の妻、雛だった。

雛は子犬のようにぴったりと俺の後について、俺がソファに座ると隣に座り、甘えたように擦り寄ってきた。そのなんともいえないいじらしさに心がくすぐられる。


俺達はいわゆる新婚で。結婚してやっとこの間、一年を迎えたところだった。
雛はなんと俺よりも一回り年下で、婚約当初はよく周りにからかわれたものだった。始めはその年齢差に罪悪感を抱いていたが、今となってはそんなもの気に止めてなどいない。正々堂々と二人並んで道を歩ける。成長したものだ。


「ねぇ、陣内さんたら、聞いてるの」


回想に耽っていた俺に雛が頬を膨らます。子供のような仕草に思わず顔が綻んだ。


「すまない、何を言おうとしたんだ?」


意識の焦点を変えて、興味があるような素振りで聞き返すと、雛はまるで花が咲いたかのように、一気に顔色を明るく変えた。


「ふふ、陣内さん、今日がなんの日かわかる?」

「……………」

「………わからないの?」

「いや、少し考えさせてくれ」

「しょうがないな。いいわ」


頭をフル回転させて必死に考える。
壁に掛かったカレンダーに視線を送ると、今日の日付は1月31日。はて1月31日に何か特別なことがあっただろうか。過去の糸を手繰るようにして頭を働かせた。

まずいな、本当にわからない。
結婚記念日はついこの前に済ませてしまった。雛の誕生日でもないし、俺の誕生日でもない。国民の休日でもないし、特別なイベントの日でもない。いったいなんだって言うんだ。

考えても、考えても、謎は深まるばかりだった。一向正解が見つからない。

深く考え込む姿を見かねて、雛が口を開いた。


「陣内さんわからないの?」

「……………すまない」

「残念。じゃあ正解を教えてあげる」


無邪気に雛が微笑む。



「今日はね……………愛妻家の日よ」

「…………愛妻家の日?」

「そう。まるで陣内さんの日みたいでしょ」

「俺の?」

「ええ。だって私、陣内さんほど優しくて大事にしてくれるヒト知らないもの」


だから、今日は陣内さんの日。陣内さんに感謝する日なの。
そういって雛は軽く俺の頬に口付けた。
その何とも言えない愛らしい姿に、俺は年甲斐も無くときめいた。

まったく、よくやってくれる。
彼女にはいつも驚かされてばかりだ。俺に感謝する日だって?なんと、愛らしいことを言ってくれるものか。こんな年増をこんなにも喜ばせてどうするつもりなんだ。幸せすぎて辛いとはこういうことを言うのか。

何故か無性に堪らなくなって、空いている両手で思い切り雛を抱きしめた。
俺の胸にすっぽりと収まりきった雛は嬉しそうに背中に腕を回して身体を寄せた。


「陣内さん大好き」




あぁ、もう本当にどうしてくれよう。
兎に角、今は雛が飽きるくらい愛してやろう。







その暖かさが心を満たす
(嫁が可愛すぎて辛い)









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