色は匂えど

□次に出逢うことがないように
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あぁ、どうして。
どうしてあのような馬鹿な約束をしてしまったのか!!

どうして、どうして、あの頃の俺たちは、俺は、信じて疑わなかったのだろうか。確証などなかったはずなのに。確かなものなど、何一つなかった筈なのに。ただ、目の前のありふれた幸せというものに酔っていただけなのだ。あの、美しい世界に惑わされていただけなのだ。君という存在に、魅せられてしまっただけなのだ。


何百年と刻を越えて、どうしてその約束が果たされてしまったのだろうか。
あぁ、今ほど昔の自分を恨んだ日はない。あぁ、馬鹿らしい。「生まれ変わっても一緒にいよう」なんてそんなありきたりな口約束をするなんて。あの時の俺は、反吐がでそうなほど甘ったるい〈しあわせ〉という夢に頭を侵されていたのだ。でなければ、通常の俺ならば、あのような、確信のない約束はしなかった。しなかった筈なのだ。

輪廻転生など信じていなかった。
でも君という存在が俺に少しの希望を見出させた。そう、そうなのだ!!君が俺に期待を持たせたというのに!!君が俺の固定観念を捨てせたのに!!君が俺の全てを変えてしまったというのに!!

なぁ、これは一体全体どういうことなんだ。こんなことって、あっていいのだろうか?確かに俺達は約束したさ。けれども不完全のものならばいらない。こんな現実ならいらない。許さない。絶対に許さないよ、ねえ。俺ばかりがこんな想いをするなんて、絶対に許さない。

そういえば君は昔からそうだった。
人一倍、大雑把で、面倒くさがりやで、自分勝手で、でもとても優しくてそしてとても残酷で。
真面目すぎると言われていた俺ばかりいつも損な役回りだった。
それでも、俺は愛していたから、君は愛してくれたから、信じていたのに。

君はこの世で一番、最低なやり方で俺を裏切った。
ねぇ、どうして、どうして君は、忘れてしまったんだい。俺はこんなにも鮮明に憶えているというのに。君の姿かたちも、声も、仕草も、全てを憶えているというのに。君はどうして全てを忘れてしまったんだい。
こんなにも俺の全ては君に占められているのに、君には、全てのことがなかったことになっているなんて。初めから存在していないことになっているなんて。

約束したじゃないか。あんなにも固く、強く、約束したじゃないか。
許さないよ。絶対に許さない。
君が憎い。憎くて、憎くて、たまらないよ。腹が立つし、悔しいし、恨めしい。でも。


愛してるんだ。雛。


どうしようもなく、愛してるんだよ、雛、君のことを。今も、昔も愛してるんだ。好きで、好きで堪らないんだ。こんなにも愛しているのに、君はどうして俺のことを忘れてしまったんだい。君がどんな形で俺を裏切ったとしても、君のことを、誰よりも、世界で一番、愛しているのに。


君に出逢わなければこんな想いを抱くことなどなかっただろう。
君に出逢わなければこんな感情を知ることもなかっただろう。
全ては雛が俺に教えてくれた、大切な想いだよ。
でも、こんな想いを抱えるのは一生でいい、二回もいらないよ。一人で抱えるのにはあまりにも重く、辛くて、虚しい。

こんなにも、胸が張り裂けそうな、身が切れるような想いをするぐらいなら、

独りでこの愛を背負うくらいなら、
来世では、どうか、



どうか、







次に出逢うことがないように
(例え、僕が忘れていたとしても)














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