なんということでしょう。

□2:友達を紹介します
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「死ぬかと思った・・・」
「でも、良かったじゃないか。遅刻しなくて」
「遅刻とかの問題じゃないし!!!命に関わることだよ」
「いやいや、俺達も驚いたんだからな・・・・



お前が急にブッ飛んできて」




絶体絶命。
遅刻確実だった私と兄、そしてはっちゃん。
だが、兄の恐るべし体力により、奇跡的に授業開始1分前に学校に到着した。


しかし、私の教室は正門前の西棟ではなく、反対側の東棟にあった。
正門から一分で行ける距離ではない。
なので私は潔く遅刻決定を覚悟して教室へ向かおうとした。


兄に担がれるまでは


『え?え?な、何してんの?』
『雛、お前の教室はあの窓が空いてる教室か?』

兄の指差す100メートル先に私の教室。

『そ、そうだけど・・・』
『そうか!!!ーーー竹谷、お前は走れ。流石に二人同時は無理だからな!!!』
『は、はい・・・先輩、まさか』
『雛、歯ぁくいしばれ。危ないからな』
『え、本当、何する気』
『っ、いけいけ、どんどーん!!!』
『ギ、ギャァァアア』


瞬間、体が宙に浮いた。
そして、私は加速するスピードと共に教室の窓に向かっていく。
何処かの遊園地のジェットコースターとは比にならないほどの恐怖感が私を襲った。


・・・死ぬ
絶対死ぬ。
こんなことなら冷蔵庫に大事に閉まっといたハーゲ〇ダッツ食べればよかった。
読みかけのジャ〇プ、読んどけばよかった。
走馬灯が頭の中を駆け巡る。数ある思い出の中でも大多数を占める幼馴染みの顔が浮かんだ。

はっちゃん。
最後に私の唯一の味方、はっちゃんに会いたーー


加速するスピードと共に宙を飛ぶ身体。
窓を目指して一直線に。そしてーーー




現在に至る。


「実の妹を投げるなんて、あり得ないんですけど!?」

「まぁまぁ、無事だったんだから、よかったじゃん。
ーーそれにしても、やっぱり七松先輩の運動神経って凄いね。綺麗なぐらい真っ直ぐブッ飛んできたもん笑」
「勘ちゃん?全然笑えないんですけど」

「いや、超ウケた。あの時の雛の顔といったら笑。女、捨ててる」
「勘ちゃん、ちょっと表でようか」
「断るw」

さすが体育委員会委員長と言うべきなのか。
兄は人並み外れた体力、運動神経の持ち主。
一ミリもずれることなく、私は教室にたどり着いた。


「けど、三郎が受け止めてくれなかったら絶対怪我してたわー」
「私の素晴らしい反射神経に感謝しろ。(受け止めてられなかったら七松先輩に殺されてるからな)」


顔面から突っ込んできた私を受け止めてくれたのはへんたーー三郎だった。


「でも三郎、よく突っ込んできたのが雛だってわかったね。僕、全然わかんなかったよ」
「愚問だな。雷蔵。でるところはでてなければ、凹んでるところも凹んでいない。
ーーそんな幼児体型な奴は雛しかいないじゃないか。私はすぐわかったぞ」

「誰が幼児体型じゃい」

「安心しろ。私が責任を持って育ててやるから。手始めに胸を揉んでーー」


「三郎。そろそろ黙ろうか」


「雷蔵、顔。顔超恐い」


今朝、兄も背中と言われたほどにつるぺたのまな板のような胸。
別にコンプレックスとかそんなのではない。断じて。

だから三郎の言葉に憤りを覚えたのは、決して図星だったからではない。決して。
単に、三郎の顔が目障りだっただけである。


そして、雷蔵は私を変態(鉢屋氏)から救ってくれる救世主である。

神様仏様雷蔵様。


「てか、竹谷はよく間に合ったよね。ボ〇トか」
「それゃあ、必死で走ったからな。マジで疲れた」
「さすが、はっちゃん!!!格好いい!!!」
「止せよ雛、照れるだろ」
「マジでこの幼馴染み二人組ムカつくわー竹谷爆発しろ」
「まぁまぁ僻むなよ、勘右衛門くん」


そう。私ですら諦めていたのに、はっちゃんは全速力で走り、見事遅刻を間逃れたのだった。

普段、あの暴君に無理矢理付き合わされてるマラソンが役に立ったんだね!!


「それにしても兵助遅くね?」


三郎が思い出したかのように辺りを見渡す。
それにつられて私達も首を回した。

確かに今日、まだ兵助ーー
久々知兵助を見かけていない。
優等生の彼がサボるなんてことは、まずないだろう。


「あ、本当だ。遅刻?兵助に限ってそんなことないよね。どっかのボサボサ頭とは違うし」
「勘右衛門。俺、遅刻してませんけど?」
「本当、どうしたんだろ」
「無視!!!」


「あ、兵助なら豆腐同好会で新種の豆腐を作るから遅れるって言ってたよ」


雷蔵が"さっき、廊下ですれ違ったの忘れてた"と呆然として言った。


ーー豆腐同好会。

馬鹿と天才は紙一重とはよく言うものだが、彼はとんでもない豆腐馬鹿だ。
兵助は異常なほどに豆腐が好きな男である。
豆腐を愛してると言っても過言ではない。

そんな彼に付けられたあだ名は"豆腐小僧"だ。


豆腐同好会なんて奇妙な同好会を知った三郎が急に吹き出した。

「豆腐同好会って笑。あいつ、そんな変な同好会、いつのまに」
「しかも生徒、1人らしいよ。顧問、木下先生だって」
「木下先生、不憫www」
「なんで勘ちゃん、そんなこと知ってんの」
「学級委員会お得意の情報網ですから」

勘ちゃんは学級委員会に所属している。生徒会とは別に学園内の部活、同好会を管理するのも彼等の仕事だ。
勘ちゃんが言うにはこの学校にはまだその他にも不思議な同好会が沢山、あるらしい。

ロリ同好会とか穴堀同好会など。


聞いただけでは活動内容が不明である。


「新しい豆腐ができたー!!!」


勢いよく空いたドアの先には、豆腐大好き、兵助が仁王立ちしていた。


「遅かったじゃん、それで新種の豆腐とやらはできたの?」

勘ちゃんの問いに目を輝かせて答える。

「あぁ!!!素晴らしい豆腐ができたんだ!!!ーーとういうことで雛!!!」


勘ちゃんのから方向を変えて、私の方に向き変える兵助。





「豆腐プレイをしよう!!!」




改めて言わせて頂こう。
こいつは正真正銘、豆腐馬鹿だ。

「・・・は?」


一瞬、何を言われたのか解らなかった。
綺麗な顔をしてとんでもない事を口走る。彼を王子様だと持て囃しているクラスの女子が聞いたら、おそらく卒倒するだろう。


「心配しなくても、大丈夫だぞ!!!肌触りは最高だから!!雛の肌にもフィットするから!!!」
「いや、意味分かんないんだけど!?」


自信満々に豆腐を差し出す。
その自信は一体、どこからくるのか。アブノーマル過ぎる兵助の思考は理解に苦しむ。


「え、何それ兵助。そんな面白そうなの、1人だけ狡くない?」
「同じクラスのよしみとして勘ちゃんも混ざる?」
「3P!マジかw」


え、ナニイッテンノ?この人達。
また一人変質者が加わり、余計に話がややこしくなってしまった。
私が馬鹿だからなのだろうか。特進クラスの彼等に思考についていけない。



「雛、お、おい、大丈夫か?」


心配そうに私の顔色を窺う心優しき幼馴染み。
大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ、はっちゃん。
どう考えてもこの人達の思考可笑しい。



「おい、お前ら」



不意に立ち上がった三郎と目が合う。
その顔には不適な笑みを浮かべていた。


そこに一筋、希望の光が見えたような気がした。


三郎!!!お前って奴はぁぁあ!
本当は普通の常識人だって信じてたよ!!!私は!

私は誤解してたのかもしれない、
お前は、本当は、本当は


ただの変態な男ではなかっーー





「私も混ぜろ」






希望の光が見えたような気がしただけたった。
改めて再認識させられた自分の交友関係の悲惨さに頭が痛くなった。

卒業までにまともな友人はできるのだろうか。














(さぁ、豆腐プレイをーーあああぁぁぁ!!!、俺の豆腐が!?)
(雛っ!!!落ち着け!!)
(超ウケるww)


(三郎、放課後校舎裏に来てよ。てか来い)
(ら、雷蔵さん?)


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