なんということでしょう。

□6:素直になりましょう
1ページ/1ページ



「七松、お前倉庫の部品持ってきてくれないか?」
「え、嫌です」
「おま、嫌って仮にも教師相手に、お前日直だろ」
「嫌なものは嫌なんです」



久しぶりにはっちゃんの部活が休みにになり、駅前のケーキ屋に誘われた。
はっちゃんと出かけるのは本当にご無沙汰で、私は非常に上機嫌だった。

木下先生に呼び止められるまでは。

だが私は今回の機会を逃す訳にはいかなかった。
なんとか必死になって備品を取りに行けない言い訳をしたが
木下先生も案外人が悪い。
「お前に選択肢をやろう。
風紀委員会にこの資料を提出するか、備品管理委員会に倉庫の備品を取りに行くか
ーーーさぁ、選べ」
とか抜かしやがったwww
しかも私に拒否権は無いとかw
両方とも断ったら私の内申をオール2にするとかwあ、10段階の2ですよ?
浪人確定じゃwないwwかw
教師が生徒に脅迫をしていいのか!!
と叫ぼうとしたが

ーーや、奴の目は本気だ。

ここで言う通りにしておかないと進学どころか進級も危ない。
本当に本当に、はっちゃんには申し訳ないけど私はケーキ屋には行けそうにはない。
クソっ!!!!モンブランが、タルトがショートケーキがぁぁあ!!!
甘い天使達に別れを告げ、携帯を片手にはっちゃんに謝罪の電話をする。

『別に気にすんなよ!!ケーキ屋は何時でも行けるからよ。お前も大変だな、頑張れよ!!』
「はっちゃん・・・本当にごめんね」

なんて男前なんだろう。
急なキャンセルに怒りもしないなんて。
うちの兄だったら、約束は絶対。
無理矢理にでも連れていかれるからな。

はっちゃんの懷の広さに感動し、私は日直の務めを果たすべく目的地へと向かった。
ーー行き先は勿論。




「雛じゃないかぁあああ!!!」
「食満先輩、ちか、近いです」



備品管理委員会である。
私にとっては苦渋の決断だった。
風紀委員会と備品管理委員会の委員長は立花仙蔵先輩と食満留三郎先輩である。
つまり二人とも兄の友人。
兄の友人とあまり関わりを持ちたくない私にとって、悩みどころだった。

私の頭の中で立花仙蔵と食満留三郎という男は変態という位置付けに在る。
しかも二人とも必用に私と関わろうとしてくる。
そのため過去の自分はどれほど泣かされてきただろう。


しかし、よく考えてみると二人には大きな相違点があった。


立花仙蔵はとにかく恐ろしい。
この人は兄と似た傾向があり、自分を中心として活動し何せ、私に害を与える人物である。

食満留三郎は正真正銘の下級生好きな男で偶に、見るに耐えないほど距離を置きたくなるが、
私には害を与えない人物。


害を与えるか与えないか。
これが二人の違いであり、私の決断をするために必要なことであった。
いわゆる消去法なのだけれど。


「あの、食満先輩倉庫の備品を」
「そこ寒いだろ?早く入れ入れ!!
あっ!!!そういえばケーキがあんだよ!あの駅前のケーキ屋のやつ!!!!
超美味いから食べようぜ!!沢山あるから好きなやつ好きなだけ選んでいいぞ!!!!」
「はぁ、ありがとうございます。あの倉庫の」
「それにしても雛が俺の所に訪ねてくるなんて久しぶりだな!!!
嬉しいぞ!!お前は恥ずかしがりやだからな!!
でも遠慮しなくてもいいんだぞ!!何時でも会いに来てくれよ!!!
なんたってお前は俺の(未来の)嫁だかんな!!!!」
「・・・・倉庫の備品を」
「ところで、急で悪いんだけれどランドセルとか興味ある?
お前に似合う可愛い赤色のやつを買ったんだけれど
ーー背負ってくれないか?」
「倉庫の備品んんんん!!!!!」


駄目だ。
まったく人の話を聞いていない。
しかもランドセルなんて5年前にもう卒業したわ!!!!!

よほど嬉しかったのだろうか。
食満先輩の口は留まることを知らない。
しかも、さり気なくロリネタをぶち込んでくるので迷惑だ。
そんなに小さい子が好きなら保父さんにでもなればいいと思う。

私が大声を挙げたので先輩は我に帰ったように顔を上げた。


「わ、悪いな暴走しちまって」
「い、いいえその、倉庫の備品を貰いに来たんですけど」


でも食満先輩の良いところはちゃんと自分が暴走しているのを自覚するところ。
自覚するまでが長いんだけれども。
しかし、自分がロリコンと言う名の変態だというところは否定しており、自覚していない。
そこが一番重要なのだけれど。


「あぁ、そうだったなーーー作兵衛!!!」
「はいっ!!!!」


部屋の奥に向かって食満先輩が叫ぶと中等部の富松くんが現れた。


「あーー、倉庫の備品を持ってきてくれないか?確か物置にあったと思う」
「分かりました!!!」


先輩から指示を聞くと、直ぐに走って部屋を出ていく富松くん。
私への挨拶も忘れずに。

そのしっかりとした態度に感心する。
三之助と同級生なんて信じられない。
見習わせたい。


「雛、いつまでも立ってないで座れよ。足疲れるだろ」
「あ、ありがとうございます」


確かに少し足が疲れてきたので、お言葉に甘えて座ることにする。

だがしかし!!!!

席が見当たらない。
この部屋にある椅子は一つ。
その一つは食満先輩が座っているため私が座れる場所はない。


「あの、先輩。席が無いんですけど・・・」
「ん?何言ってるんだ?ちゃんとお前の座る所はあるじゃないか」


よく探してみろ。と言う食満先輩。
だが辺りを見回してみてもやっばり席は食満先輩が座っている一つのみ。

ん?

食満先輩が座っている一つ?


もしや、と思い恐る恐る食満先輩を見る。

食満先輩は自分の膝の上を叩いてまたあの輝かしい笑顔で「座る所は見つかったか?」と言った。
嫌な予想が的中して冷や汗が流れる。


ま、まさかそこに座れと!?


俺の膝の上が空いてるぜ?的な!?


「・・・・先輩の膝には座りませんよ」
「な、何故なんだ!!??」


ほら!!!やっばりこの人膝の上に座らせる気だったよ!!!!!


「昔は『留お兄ちゃん』とか言っていつも俺の膝に座っていたじゃないか!!
お前の座る場所は俺の膝の上だろ!?」


必死になって弁論する先輩。
却下しただけでそんなに興奮しなくても・・・


「いつの話ですか・・・第一、もう人の膝の上に座る年齢じゃないですし」
「小平太の膝には座るじゃないか!!!」
「あれは無理矢理・・・・って、なんで知ってるんですか!?」
「見たから」


み、見たって!!
兄が膝の上に私を座らせるのは家だけですよ!!??
え?いつ見たの?
ストーカー宣言に困惑する。


「とにかく、先輩の膝には座りませんので」
「だが断る!!!」
「なんで!!??」


急に私の腕を掴んで無理矢理、膝の上に座らせようとする。
しかし、腕を掴む力が強すぎてそのまま私の体は反転して床とキッス状態になってしまった。


「雛ーーーーっ!!!!!」


食満先輩の絶叫が耳を劈く。
そんな大事ではないのに
ただ転んだだけなのに。大袈裟過ぎる。


「あの、ただ転んだだけなんで」
「馬鹿!!!動くな!!!!!傷口に障る!!」
「いや、別に怪我してないので」
「すぐ保健室に運んでやるからな!!!少しの辛抱だ!!!」
「え、保健し」


返事をする前に抱き上げられて、走り出す。

ーー保健室?
え、保健室?え、や、止めとけ!!!!!てか止めて!!!
保健室とかいったらあれじゃん?
伊作先輩と出会うフラグが立ってしまう!!!!!い・や・だ!!


「伊作ーー!!!!!怪我人だ!!!至急頼む!!」
「え、着くの早っ!!!!!」


食満先輩どんだけ走るの早いんだww
1分経ってないww


「えー?怪我人?誰?僕今、骨折の重症人診てるんだけど」
「雛だ」
「なんだって!!??あ、君もう帰ってもいいよ」
「え、でもまだ「帰ってもいいよ」
「ちょ、診てあげて!!!私より完全にその人の方が重症だから!!!」


しかし伊作先輩は骨折の重症人を保健室から追い出してさっきまで、その人が座っていた席に私を座らせた。
この人、本当に保健委員長!?酷過ぎる!!!骨折の人、本当にごめんなさい。


「あぁ!!!顔が腫れてるね。可哀想に痛かっただろう?」
「いえ全然痛くないです」
「なんて健気なんだ!!!いいんだよ。僕には本当のことを言って?僕は君の未来の夫なんだから」
「いや本当に痛くないんで」


ひたすら否定すると、伊作先輩が暗い表情になり、そうか、と呟いた。


「僕には話せないんだね・・・僕はこんなに君のことを想っているのに」
「い、痛い!!!痛かったです!!!だからその手に持っている注射器を捨てて下さい!!!」


怖い。怖い!!怖すぎる!!!
なんなの!!??え?私を殺す気ですか!?
その注射器の中の怪しい液体は!?ワクチンとかじゃないよね?絶対に!!!


「やっぱり痛かったんだな。ごめんな勢いよく掴んじまって」
「いえ、食満先輩は悪くありません。私が自分の体を支えきれなかっただけなので。
ーーーでは、さようなら」
「駄目だよ!!!安静にしてなくちゃ!!」
「ぎゃあ、痛い!!!」


伊作先輩な頭を掴まれ有り得ない方向に首が回る。
え?今グキッて!!グキッて鳴りましたよ?


「ほら、痛いんじゃない。しばらく保健室で安静にしてること」


いや、今のは貴方のせいですよ!?
貴方が思い切り頭を鷲掴みにしたから!!!
こんな時ばかり委員長の威厳を見せないでくれます?
何が「安静にしてること」だ!!
ここにいたら安静になんてできる訳がない!!!


判断して再び保健室を出ようと試みる。


「コラ雛!!」
「痛!!!痛い!!!」


今度は肩が!!!
思い切り後ろにゴキッて!!!脱臼してしまう!!!
食満先輩、握力強すぎるんですって!!!


「もう、雛ちゃんは本当に困ったちゃんなんだから。ちゃんと安静にしなくちゃ駄目って言ったよね?」
「全くだ。心配で俺達の身が持たないな」


何故かとジリジリと二人に囲まれる。
に、逃げ場が無い、だと?
ゆっくりと顔を上げると笑顔の二人と目線が合う。


「今日は僕達がゆっくり看病してあげるから」
「いい子に大人しくしてるんだぞ?」





あ、今日、私の命日だわ。









(食満先輩!!!倉庫の備品、見つかりました!!!ーーって、あれ?誰もいない)




(七松は何処で何をやってるんた!!!)
(アイツはこれから永久居残りだな)

-

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ