なんということでしょう。

□8:海を越えて今日は
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「雛先輩」
「ギャッ、喜八郎!!」


急に抱きつかれてバランスを崩した私は大勢の人が通る廊下という場所で盛大に転ける。
顔面は地面とこんにちは状態で背中には高校生男子にしては少し軽い重みを感じる。
周りから見たら滑稽な姿だろう。
しかしいくら待っても上に乗っている人物は退こうとしない。


「き、喜八郎、この状況ちょっと、かなり恥ずかしいんですけど」
「僕はちっとも恥ずかしくありません」
「いや、私がね?だから退いてくれないかな?」
「えー」
「えーじゃない!!!」


私が暴れると喜八郎は不満そうな顔をして渋々退いた。
解せぬ。その顔は私がするべきだろう。


「廊下を歩いてたら雛先輩が見えたので嬉しくて抱きついちゃいました」
「可愛いな!!!お前!!」


仕方がない。そんなに可愛い理由なら許してやろう。
狙ってんの?ここで首傾げるとか。狙ってるんだよね?
喜八郎は正直、女の私より可愛いと思う。これは紛れもない事実。認めよう。


「でもなんで喜八郎は2年生の階にいるの?1年生は1階だよね?誰かに用事?」
「雛先輩に用事です」
「え?私?」


「僕達の学年に転校生が来たんです」確かに喜八郎はそう言った。
話によるとその転校生は帰国子女で本当は高校三年らしいのだけれども
2年間アメリカに留学していたので高校一年生に編入したらしい。

そんな人とわたしにどのような関係が?

そう尋ねるとなんでも喜八郎がその人に私の話をしたら会いたいと仰ったそうな。
断る理由もないので喜八郎についていくことにした。


「それにしても帰国子女なんてド偉い方が私なんかに何の用があるのかなぁ」
「なんでもその人昔は此処の近くに住んでたらしいです」


へー、そんなんだぁ。なんて他人事のように考える。
そういえば昔近所に住んでた人が2年前くらいだったかな・・・?
美容師になるために修行をしてくるとか言ってアメリカへ行ったけ。
彼がこの地を離れてくれて私はどれほど安堵したことか。
練習と言っていつも実験台にされていた余り遠くはない日々。
そのたびに私の頭は見るに耐えなくなっていた。
流石に蛞蝓ヘアーにされた時は本気で泣いたなぁ。

目を閉じれば今でも聡明に思い出せる彼の笑顔。
当時はあの笑顔が怖くて怖くて堪らなかった。
彼ほど裏表がはっきりしている人物は記憶なかを探しても見つからない。


「先輩、ここが転校生の教室でーす」


だが今となってはもう過去のこと。
恐ろしいあの人は今は海の向こう側。
此処、日本にはいないのだから。
そう意気込んで教室の扉を開く。


「失礼しますー」
「わぁ!!!雛ちゃん久しぶり!!!」
「失礼しました!!!!!」


ピシャッともの凄い勢いで扉閉める。あれ・・・?なんか、居ないはずの人が居たような?


「雛先輩?どうしたんですか?」
「あぁ、ごめんね喜八郎。なんか私目が疲れてるみたい」
「おい、何勝手に扉閉めてんだよ」
「ギャアアアアアッッ!!!!」


後ろからもの凄い力で頭を引っ張られ髪の毛がブチブチと音をたてて抜けていく。


「なんなんだ、この髪質は。留学前に毎日トリートメントしろって言ったよな?殺すぞ」
「タ、タカ丸さん」


忘れもしない。
この金髪。この顔。この声。そしてこの横暴な態度・・・
紛れもなく近所に住んでたあの斎藤タカ丸。
鋏を持たせたら最悪・・・じゃなくて最強なあの斎藤タカ丸だ。


「雛先輩、知り合いですか?」
「違「ご近所さんなんだぁ〜!!僕達、すっごく仲良かったんだよ!!本当の兄妹みたいに!!ねっ、雛ちゃん!!!」
「え、んな馬鹿な「あ゛?」
「それはもう仲良くさせて頂いておりました!!!!」


この顔。一瞬見せた人一人殺せるような顔。2年前と変わらない。
何も変わっていない。有無を言わせないこの圧力。怖すぎる。


「もぉ〜僕何回も手紙を送ったのに雛ちゃんったら全く返事くれないんだもん。寂しかったなぁ」


手紙・・・?あの三日に一度のペースで送られてきたあの殺人予告のこと?
あれが手紙?え?


「雛先輩とタカ丸さんはご近所さんだったんですねー」
「うん!!!これから宜しくね〜雛ちゃん、喜八郎くん」
「私はできれば宜しくしたくないです」
「え?死にたいって?」
「タカ丸さんが帰ってきてくれて本当に嬉しいです!!!!宜しくお願い致します!!!!」


もう。なんなのこの人。怖すぎる。
ただでさえ毎日生きているのに必死なのに+タカ丸さんとか死亡フラグビンビンだよ。
何この仕打ち。前世で何か悪いことしたのかな?


「タカ丸さんが帰ってきたって本当かっ!!??」
「はっちゃん!!!」


どこかで噂を聞きつけたらしいはっちゃんが凄いスピードで駆け付けてきた。


「雛、大丈夫だったか?」
「え?」
「お前、昔からタカ丸さんに酷い目に遭わされていたからな。心配で」
「そ、そんな私のために?」
「もうお前をあんな目に(蛞蝓ヘアー)遭わせたくないんだ」
「は、はっちゃん!!!!」


はっちゃんの男気溢れる心遣いに感動して思い切りはっちゃんに抱きつく。
私の一番の味方はやっぱり、はっちゃんだよ!!!
貴方だけが私の救いよ!!!!


「いつまで抱きついてんだよ。離れろ」
「頭!!頭離して下さい!!!」


デジャウ。
何が気に食わなかったのか大層お怒りになったタカ丸さんによってまた私の髪の毛達は消えていく。
止めて!!それ以上抜けると禿げちゃう!!!
波○さんになっちゃう!!!

そのまま私はすっぽりとタカ丸さんの腕の中に収まった。
抜けだそうと試みるが、逃げようとすればするほど力が強くなっていく。


「久しぶり八左ヱ門くん。相変わらず酷い髪質だね」
「お久しぶりです。タカ丸さんお元気でなによりです」
「痛っ!!ギブッ!!!タカ丸さ、力強過ぎ!!」
「君もまだ雛ちゃんの周りをうろちょろしてるんだね」
「大事な幼馴染みですからーーーそろそろ雛を離して貰えますか?死にそうなんで」
「えー?嫌だよ〜そんな雑巾みたいな頭の人に命令されるなんて」
「ぞ、雑巾!?」


雑巾だと?私のはっちゃんになんてことを!!!!貴方だってバナナみたいな頭してるじゃないか!!!バナナめ!!!
ーーーと言えたらいいなぁ


「タカ丸さんと竹谷先輩は仲が悪いんですかー?」


喜八郎が不思議そうに尋ねるとタカ丸さんはキョトンと目を丸くした。
その時、やっと私の腰に回っていた腕が解かれて体に十分な酸素を取り入れることができた。
あぁ、よかった。私生きてる・・・


「え?やだなぁ喜八郎くん。そんなわけないじゃない。ーーー僕が一方的に嫌いなだけ」
「俺、タカ丸さんに何かしましたっけ!!??」
「だって君、昔から金魚の糞みたいに雛ちゃんの近くに居るんだもん。目障りで」
「き、金魚の糞!!??」


タカ丸さんの理不尽な発言にはっちゃんは少なからずショックを受けていた。
喜八郎は興味無さげにただ「おやまぁ」と呟いた。
私はその言葉に怒りを覚えた。


「はっちゃんをそんな風に言わないで下さい!!!はっちゃんは何時だって私のヒーローなんですから!!!」
「雛・・・」


いつも私を助けてくれる優しいはっちゃんを糞扱いするなんて許せなかった。
私にしては珍しく自分から啖呵を切ってしまった。


「わぁ、雛ちゃん、何時から僕に刃向かえる御身分になったのかなぁ・・・・調子乗ってんじゃねぇぞ」
「すいません。調子に乗りました」


自分から言っておいて3秒も、もたなかったww
睨まれただけで死ぬかと思ったw
はっちゃんごめん!!!
私じゃタカ丸さんに勝つとか一万年早かったww


「竹谷くんもさぁ、女の子に守ってもらうなんて恥ずかしくないの?刈るぞコラ」
「俺もう、この人嫌だ」
「はっちゃん!!!諦めないで!!!」
「なんかつまらないから穴掘ってきまーす」
「喜八郎!!アンタは自由過ぎる!!!」


もう嫌だ。
本当、なんで帰ってきたんだろうこの人。
永遠にアメリカに居ればよかったのに。


「あ、そういえばね〜」


間の抜けたようなタカ丸さんの声が響く。


「さっき小平太くんに会ったついでに僕が雛ちゃんの彼氏ですって言っちゃった」
「何言ってるんですかアンタ!!!!!」


馬鹿!!馬鹿!!!貴方、私を殺す気!!?
彼氏とかその単語一言にあの人がどれほど反応するか!!??ご存知で?
昔クラスの男子とカラオケに行っただけでその日私は生地獄を見た。
なのに彼氏とかww
私、確実に死ぬww兄に殺されるww
兄曰く、私は嫁には行けないらしい。
「私の目が黒いうちはお前は嫁にやらん」とか言ってた。
じゃあ私一生結婚出来ないじゃん!!
兄が死ぬ日とか永遠に来ないww



「頑張ってね。雛ちゃん」



今日ほどこのバナナが憎たらしいと思った日は無い。
その笑顔!!!ふざwけwwんなw


とにかく


アメリカに帰れ!!!!











(私、今日帰りたくない)
(今日、ウチ来るか?)
(はっちゃん!!!)



(うん。君達本当に爆発すればいいと思うよ)
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