なんということでしょう。

□10:銃刀法違反
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急用ができた。
悪いが今日は行けない。代わりの奴を送ったから、今日はそいつに勉強を教われ。



我が家庭教師、潮江文次郎からこのメールが送られてきたのはたった五分前。

仕方のないことだ。
なんたって文次郎は生徒会長様。
たくさんの雑務に日々追われて生活している。その証拠があの目の下の隈と言っても過言ではない。
そんな忙しい中、毎日私のために時間をさいて来てくれるのだ、感謝しなくてはならない。


「・・・・だけど」


"代わりの奴"って誰なんだろう・・・?


その疑問が私のなかで渦を巻いた。
私は結構、見かけによらず、人見知りをする。
だから初対面の人の前では緊張して挙動不審になってしまう。
それはもう、キモイくらいに。
その"代わりの奴"が気になって仕方がなかった。


真っ先に思い浮かんだことは・・・


「変態だったら、どうしよう」



認めたくはないが、私の周りは殆どと言っていいほど変態が生息している。
数少ない常識人は長次先輩、雷蔵、そしてはっちゃんくらいである。


今回も、もしかして・・・


と、いう不安がどうしても捨て切れない。



・・・ううん、ダメよ雛!!そんなに簡単に人を疑っちゃ!!!
世の中に普通の人だって沢山いるはずだわ!!!
進め私!!!諦めるな自分!!!


そう自分を元気づけて、帰宅することにした。
そうでないと、やってられない。
どんな相手であれ、必ず分かり合えることがあるはず!!!
まずは初めまして、こんにちは。七松雛です。
今日はよろしくお願いします。


よし、これでいこう。


自己紹介の練習をし、私は決意を固くした。





「こ、こんばんわ!!!初めまして、七松雛です!!!よろしくおねっ・・・ぇ?」
「遅い。どれだけ待てせるんです?早く座って下さい」


急いで帰宅し、部屋に向かいドアを開くと、見たことがある人物が私の椅子にそれは偉そうにふんずりかえって座っていた。

女子と間違えるくらいに美人で整った顔。
茶髪の短髪に、色素の薄い目、モデルのようなスタイル。
そう、例えるならまるでアイドルのよう、この人物はーー


「た、田村・・・くん?」
「如何にも。田村三木ヱ門ですが、何か?」



・・・・文次郎、殺す。
おま、お前、私は二年生ですよ?田村くん一年生やないかい!!
何が悲しくて年下に勉強教わらなくてはいけないの?馬鹿にしてんの?
あ、もしかして私のこと中等部二年生と間違えてんの?は?高校二年生ですよ?
しかも、田村くんって!!!!!
人選適当過ぎるだろ!!どうせ、生徒会の中から適当に選んだんだろ?マジで許さん。


私の考えを読み取ったのか、田村くんがおもむろに眉間に皺を寄せた。


「・・・何です?その顔は。僕に何か不満でも?
言っときますけど、これでも潮江先輩は考慮して下さったんですよ?最初は左吉に頼むつもりだったんですから」
「何ですと!!??」



え?そこまで私のレベル下げられてんの!!??
任暁くんて!!!!!中等部一年生って!!!何を教われというの!!??

あまりの酷い私のレベルの認識に驚愕してしまう。


「雛先輩は驚くほど頭が悪いと聞きましたので、僕は手加減しませんよ?今日でみっちり叩き込みます」
「ちょww田村くんwなんでwそんなやる気なのww」

「ふざけてるんですか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


心臓が飛び出るかと思った。
なんで?なんで今火器を持ってんの?
なんで?火縄銃持ってんの?
しかも、銃口私の方に向いてるんですけどwwさすがの私も打たれたら死ぬw
え?銃刀法違反とかどうなってんの?
あ、 銃砲刀剣類所持等取締法だっけ?


「いいですか?次、ふざけたことを言ったら撃ちますから」
「肝に命じます」
「よろしい」


納得したように火縄銃を降ろす田村くん。
私はしかとこの目で見てしまった。
彼が火縄銃をしまった鞄の中には沢山の火器や火薬が入っているのを。

ま、まさかとは思うけど、この人私を殺しにきたんじゃないでしょうかね?
なんか恨みを買ったのかしら・・・?


「人の顔をジロジロ見ないで下さい。まぁ、僕が美し過ぎて見とれていたというなら話は別ですけど」
「あ?いえ、違うけど」
「・・・・・」
「ギャ、そ、そうです!!田村くんが美しすぎて見とれてました!!!だからその危険物を私に向けないで!!!」
「・・・最初からそう言えばいいんです」


なんなの?なんでこの人、こんなに偉そうなの?
文次郎じゃないけど私、先輩ですよ?
あ、馬鹿過ぎて先輩として認められてないとか?
どっちにしろ舐められとる!!!!!


「では、まず始めに何から始めますか?」
「うーん。数学は文次郎に教えて貰ってるしなぁー」
「・・・歴史とかどうですか?僕、得意教科なんで」
「本当?歴史、苦手なんだよねー・・・歴史だけじゃないけど」
「決まりですね」



なんというか、田村くんは教え方が上手い。
文句や嫌味をちょくちょく言ってくるが、解説はとてもわかり易い。将来は学校の先生に向いてると思う。
顔が整ってる分、正解するとみせてくれる笑顔が心臓に悪い。もう、本当にアイドルになればいいよ。
田村くんって頭がいいんだなー、と思い知らされた。
それと同時にやっぱり私の方が馬鹿なんだなぁ、ということを再認識して虚しくなった。


「では、最後に織田信長が長篠の戦いで使用した火器はなんですか?」


勉強も終盤に近づいて仕上げに田村くんが問題をだしてくる。
長篠の戦いって、小学校で習ったしww楽勝、楽勝ww
なんて、甘い考えが田村くんの逆鱗に触れるなんて、この時は思ってもいなかった。


「え、鉄砲でしょ?」


この一言で部屋の空気が一気に下がった。
さっきまで優しく微笑んでくれていた田村くんは目の前には居らず、信じられないとでも言ったような顔で私を疑視していた。


「ふ、ふざけてるんですかっ!!!!!」
「ちょ、え、待っ、は、発泡しないで!!!」


急に立ち上がり、火器を構えて物凄い形相で私を睨む田村くん。
今にも発泡する勢いで私は落ち着いていられない。


「鉄砲!?なんでそんな大雑把にひと括りにするんですか!!??信じられない!!馬鹿ですか!?馬鹿なんですか!!??」
「そんなに馬鹿馬鹿言わなくても・・・」
「馬鹿ですよ!!!!!大馬鹿!!鉄砲は鉄砲でも、火縄銃です!!!!!しかもただの火縄銃ではありません!!種子島火縄銃です!!」

「小学校でそんなの習わなかったし・・・」
「常識です!!!常・識!!」


この世の終わりみたいな顔をして項垂れる。え?そんなに?

そんな馬鹿な。確かに私は馬鹿だけど、そんなマニアックなことわかるわけない。きっと一般人だってわからないよ!!!!!

まるで人が変わったかのように叫ぶ田村くんに怯える。
思い切り罵倒されて、私のHPはほぼ0に等しい。


「 いいですか?火縄銃は、初期の鉄砲の形態のひとつで、先込め式で、黒色火薬を使用します。 15世紀前半にヨーロッパで発明され、特 にドイツにおいて発展し「もういいです!!!よ〜く分かりました!!!奥が深いですね!!!!!」


この話題から話を逸らしたくて納得したような身振りをしたが、逆にその反応が気に入らなかったのか田村くんはますます目を吊り上げた。


「な、何ですか!!!!!その適当な反応はっ!!それが火器を愛する人間の言動ですか!!??」
「いや、別に火器とか私にとってはどうでもいーー」
「・・・」
「ひ、ひぃ、か、火器最高ッス!!!本当、一日中見てても飽きないというか!!」


やっぱりこの人今日、私を殺しに来たんじゃないの?怖すぎワロスwww
どんだけ撃つつもり?今日何回銃を構えたの?ねぇ?


「・・・雛先輩にはガッカリですよ。やっぱり一から叩き込むしかないか・・」


何で後輩に失望されなきゃならないですか?
ガッカリって!!!しかも、一から叩き込むって何を!? あ、火器のことですか?そうですよね。わかります。


「雛先輩」


今日一番の笑顔で田村くんが微笑む。
その笑顔できっと沢山の女子がノックアウトされるんでしょうね。
そのままジャニーズ事務所に入社したらどうでしょうか。



「今夜は寝かせませんから」



火器のこと、みっちり勉強してもらいます、と田村くんは言った。




え、歴史は?

そんな疑問も今の田村くんには通用しないだけである。



やっぱり文次郎が一番無難でいい。








(よぉ、雛、勉強はかどったか?)
(文次郎、 大砲の元祖ともいうべき兵器は、12世紀の中国で発明されてーー)
(お、おい、お前、どうしたんだよ!!!目が死んでるぞ!!)



(自分から雛先輩の家庭教師に志願したなんて、とても言えないな)


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