なんということでしょう。

□11:周囲への注意は大切に
1ページ/1ページ



『高等部二年二組、七松雛、至急生徒指導室まで来い』


昼休みのことだった。
四時限目も終わり、食堂はお腹の空かせた生徒、職員で溢れていた。
それは私も同様、はっちゃん、三郎、雷蔵とランチを食べるべく、食堂に訪れていた。

そんななか、いきなり校内放送が流れ、特に気に止めることなく、聞いていたら、なんと自分の名前が呼ばれたではないか。


「ちょww雛、お前とうとう何かやらかしたなww、何やったんだよw」
「え、全く身に覚えがないんだけど」


三郎がニヤニヤしながら、詳しく教えろ、とか言う。本当に腹立たしい奴だ。
けれども本当に思い当たる節がないので、私はどうしたらいいかわからなくて、混乱する。
しかも全校内放送だから、中等部の生徒もこの放送聞いてる、ということになる。恥ずかしすぎる。


「しかも、今の声ってあれだよね、あの風紀委員長のーー」
「立花仙蔵先輩、だな」


雷蔵とはっちゃんが顔を見合わせて、顔を青くした。
当の私は今にも死にそうな顔をしていたと思う。
ーー立花仙蔵。
個性が強すぎる三年生の中でも、かなり苦手の分類にはいる人物。もはや人間ですらない、と私は思っている。
彼の恐ろしさは一言では言い表せない。有無を言わせないあのオーラ、睨まれたら動けなくなる眼力、拒絶を許さない言動、自分の思い通りにしないと気の済まない性格。
全てが私にとっての凶器だ。
私は昔からあの人に逆らえない。
だから、なるべく彼の視界に入らないように、距離を置いていたのに。


「雛、俺がついてってやろうか?」
「は、はっちゃん!!」
「ハチ、あんまり甘やかすなよ」


『もう一度連絡する。二年二組、七松雛、至急生徒指導室まで来るように。
ーーいいか。あと一分で来い。一秒でも遅れたり、一人で来なかったりすればお前の恥ずかしい過去をこの全校内放送で流す』


だってさ、三郎が愉快そうに笑うので、雷蔵が顔面パンチを喰らわす。
雷蔵、ありがとう。おかげでスッキリした。


「みんな、私、逝ってくる」


皆は(三郎は気絶しているので三郎以外)全てを悟ったように深く頷いた。


「死ぬなよ・・・、俺、いつまでも待ってるから」
「雛、頑張ってね、僕たち応援してるから」

「はっちゃん、雷蔵、ありがとう」


こうして私は旅立ったのであった。終わり。
ご愛読ありがとうございました!!!次回作にご期待下さい!!!!






と、いう展開になるはずもなく。


「っ、な、七松、雛、です、し、失礼、しま、す」
「流石は小平太の妹とでも言うべきか、運動神経は良いらしい。よかったな遅れなくて。これでお前の過去は守られたぞ」
「は、はぁ、あ、ありが、とうござ、います」


あれから全速力で走って、私は無事生徒指導室にたどり着いた。
息を切らした私に対して待ち構えていた立花先輩は、相変わらず涼しげな顔をして、読書をしていた。


「あの、た、立花先輩」


なんだ、と言いながらも本から視線を離さない。


「そ、その、私、何かしでかしたんでしょうか・・・?」
「何か、とは?」
「え、その、何か問題があるから呼び出されたんじゃ、ないんですか・・・」
「問題などない」
「・・・・・は?」


「ただ、私が暇だったから呼び出しただけだ」


当たり前のように言う、立花先輩に私はただ口をあんぐりと開けて呆けていることしかできなかった。

え、じゃあ、私はただ立花先輩の暇潰しのためだけに死に物狂いで走ってきたってこと?そんな馬鹿な。
どこまで自分勝手なんだこの人。


「ちょ、先輩、それゃないですよ、何のためにーー」
「何か異論でも?私に盾突くとでもいうのか」
「滅相もありません」


ちょ、何なのww一度もこっちを見てないのに、背中から発せられるオーラだけで、泣きそうwww
先輩、読書してるなら私、必要なくないですか?帰っていいですよね?まだお昼食べてないんですよ、はっちゃんと雷蔵が待ってるんですよ。
帰っていいですかね?


「せ、先輩、私、まだお昼食べてないんです」
「そうか」
「はっちゃん達が待ってるんです」
「そうか」
「帰ってもいいですか」
「駄目だ」
「何故!!??」

「暇だからお前を呼んだんだ。帰ったら意味がないだろう」


そんな。自由過ぎる。
本を読み終わると、立花先輩はパタン、と本を閉じ、視線を私に向けた。
鋭い眼力に私はビクン、と震えた。まるで蛇に睨まれた蛙だ。


「ところで雛」


音をたてて近づいてくる先輩に無意識に引き腰になってしまう。


「普段、小平太の膝の上に座っているそうだな」
「は、?」
「留三郎が嘆いていたぞ」


け、食満先輩、余計なことを!!!


「どうだ、私の膝の上にも座らないか」
「え、遠慮しときます」
「雛、勘違いするなよ、これはお願いじゃない。命令だ」
「座らせていただきまっす!!!!」


ですよね。私に拒否権とかないですよね。そんな高価なもの許されませんよね。

全ての恥じを捨てて、無心となり立花先輩の膝に座る。
先輩はそれは楽しそうに私を見下ろした。今なら恥ずかしさで死ねる。


「それと雛」
「ギャッス」


急に腰に手を回され、奇声を発する。
ちょ、し、締めすぎ、く、苦しい。
しっかりホールドされていて動けない。


「文次郎に家庭教師を頼んだそうだな」
「え、何で、それを」
「文次郎が親切に教えてくれたんだ」


・・・・文次郎、無理矢理吐かされたな。
きっと酷い目にあったんだろう。可哀想に。同情はしないけど。
それにしても立花先輩、色々と知りすぎだと思います。情報網ハンパないですね。
私、思うんです。表向きは文次郎が生徒会長だけど裏でこの方が主導権を握っていると。裏ボス的な。

立花先輩が耳元に顔を近づけて、囁くように言った。
微かに吐息が耳にかかってくすぐったい。


「なんで私に頼まなかったんだ」


お前のお願いなら快く受け入れてやったものを、と腕に力を込めた。
え、何、この状態。デジャヴ。

ーーそれは貴方が怖いからですよ。
とは正直に言えなかった。
だってそしたら即BADENDですもの。無事にこのお膝から帰還できませんもの。

返す言葉が見つからず、黙り込んでいると立花先輩は、まぁ、いい、と言った。


「これからは私を一番に頼れよ」
「せ、先輩に迷惑かけるわけにはいかないんで・・・」
「雛」
「先輩!!!!頼りにしてますね!!!!!」
「あぁ」


立花先輩の眼力ヤバすぎるでしょww
魂抜けるかと思った。この世にさよならするかと思った。
やっぱり立花先輩には逆らえない。これだから風紀委員だけは来たくなかったのに。


私が呆けていると、立花先輩は私の手を握って、そのまま親指を朱肉に、そして机の上に置いてあった紙に押し付けた。
それはもう、自然に。


「・・・・・・・え?」


何が起きたかわからず目を丸くさせてる私を見て先輩は愉快極まりない、といった感じで口元に弧を描いた。


「押したな?」
「え、今なにを」


先輩は片手でその紙を目の前に差し出した。



「ありがとう、これでお前は今日から体育委員兼、風紀委員だ」

「は・・・・、ぇ、えええええぇぇぇ!!!????」


「ちょうど女子の委員がいなくて困ってたんだ、女子がいないと制服検査のとき、困るだろう?」


本当はそのためにお前を呼んだんだ、と立花先輩は言った。

嘘!!!嘘ん!!??適当な話をして私の気を紛らわせといてこんな計画をたてていたとは!!わざと膝の上にのせて私の注意を引いてたの!!??マジか!!??


「ま、待ってください!!!そんな、風紀委員になるとか、お、お兄ちゃんに殺されます!!!!」
「だから、体育委員兼、風紀委員といったじゃないか」
「そういう問題じゃないんです!!!!」
「何を言っても遅い。お前はもう押してしまったんだからな」
「そ、そんなの横暴です!!!私は了承していません!!!」
「雛」


急に低い声で私の名前を呼び、ゆっくりと顔をあげる先輩。





「何度も言わせるな。
ーーーーこれは命令だ」





・・・・・喜んでお受けします。








(雛のやつ、遅すぎる。無事なのかな・・・)
(ハチ・・・・、あっ、雛だ!!!)
(は、はっちゃん、らいぞ、)
(お、おい雛、しっかりしろ!!!!)



(立花先輩、性格悪いですねー、雛先輩かわいそー)
(何をいう、お前だって何も言わずに見てたじゃないかーーー喜八郎)
(バレてました?)

-

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ