マリオネットワルツ

□その目に留まる
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「俺が留三郎、お前より劣るなど、あるわけ無いだろ!」

「馬鹿かテメェ!劣るもなにも文次郎がこの俺に勝てる訳ねぇだろ!」

と、後ろから聞こえてくる雑音に立花仙蔵はため息をついた。

つい先程終わった実技実習の活躍について、二人の青年が言い争いをしているのだ。
ご丁寧に仙蔵のすぐ後ろで。

次の授業は昼休みを挟んで行われる。そのため、仙蔵とその後ろで言い争いをしている二人の青年は昼食をとるべく、運動場から食堂へ向かっていた。

仙蔵達、忍術学園の六年生が行った実習とは組対抗の鬼ごっこのようなものだった。
一人に一本に与えられ、組ごとに色分けされた紐を奪い合う。
主に連携や、個人の力量を測る目的に行われたものだ。

「第一、お前仙蔵に助けられなきゃ
自分の紐取られるところだったじゃねーか!」

「お前だって伊作が援護しなけりゃ今ごろ脱落者だっただろ!」

運動場から校舎に入るまでこの調子で、二人の青年は口論を続ける。

「少しは黙れ!!」

我慢の限界に達した仙蔵は、振りむきざま二人の頭に拳(こぶし)を入れる。
口喧嘩に集中していた二人は飛んできた拳になす術も無い。

「いってえええ!」
「ってええええ!」

二人は頭を押さえ、互いを罵るのを中断する。
そして痛みのせいで若干涙目になりながら仙蔵を睨む。

「終わったことをぐちぐちぐちぐち、文次郎、留三郎、喧嘩ならよそでやれ!!」

目の下に消えるのか心配になるほどの隈がある文次郎と呼ばれた青年も、
面倒見のよさそうな六年生は組に在席する食満留三郎と呼ばれた青年も、
いきなり暴力を振るってきたことに対して仙蔵に抗議を唱えようとする。
だが、相手の顔を見てあわてて口を閉じる。

仙蔵の得意とする武器は 焙烙火矢 だ。
普段は冷静沈着な仙蔵も、一度箍(たが)が外れると 焙烙火矢 をぽんぽんお構い無しに投げつけてくる。

仙蔵を怒らせると、ろくなことにならないということを文次郎と留三郎は身をもって知っていた。


今にも懐(ふところ)から 焙烙火矢 を取り出しそうな仙蔵が薄く笑うと、
憐れな二人の青年はしゅんと俯いてしまう。

そんな二人を見て仙蔵は口を開く。
−早く食堂へ行くぞ。
「何だあいつは」
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