マリオネットワルツ

□状況把握
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「失礼します」
そう障子越しに声を掛けられた五年い組の実技担当教師、木下鉄丸は書きかけの書類からついと目を上げた。

近くにある行灯(あんどん)の明りが夜の闇を頼り気なく照らしている。
夜も深まったこの時刻に木下の自室に訪ねてくる者はある程度限られていた。
木下が受け持つ五年い組の生徒か、この忍術学園で共に忍のたまごを教育する教師の誰か。

しかしたった今聞こえた無機質な肉声を木下は聞いたことが無かったし、その声の持ち主が誰なのかなど知るわけもなかった。
数秒の思案の後、先刻とある教師からの頼まれ事を思い出す。
どうりで聞いたことのない声な訳だ。そう勝手に納得すると障子に薄く映る人影へ向かって木下は声を掛けた。

「狭野橋だな。入りなさい」
一拍間をあけ、狭野橋と呼ばれた青年は障子を引き木下の自室へ足を踏み入れる。
なぜか瞬間かすかに桃のような甘い香りが木下の鼻腔をついた。

目の前の細身な青年をしばし観察しながら木下は口を開く。
「六年は組の担任から話は聞いている。では校庭に向かうぞ」
青年は分かりましたと一言だけ言った。
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