マリオネットワルツ

□不透明な
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湯船に浸かりながら尾浜勘右衛門は
一つ息を吐き出した。
風呂場の小窓からは月光がわずかに差し込み、湯の上を滑っている。
あと数刻で夜明けという時間だった。

先程まで実習を行っていた疲れもあり、勘右衛門は湯の温かさに浸かりながらゆっくりと目を閉じる。
次の瞬間。

「おま、三郎、俺の手ぬぐいを勝手に使うなよ。俺が体洗えないだろ!」「持ってくるの忘れたんだよ。すぐ洗い終わるんだからいいだろ。八左ヱ門は変に細かいな」
「細かくはないだろ」
「その手ぬぐい長いし、二人同時に体を洗えばいいんじゃないか」
「なぜそうなる」
「なぜそうなる」

というとても微笑ましい(やかましい)友人達の会話が響く中、勘右衛門は まどろむことなく目を開く。

すると湯船に浸かっていた不和雷蔵が苦笑いをしながら口を開いた。

「八左ヱ門、三郎、兵助、あまり騒がしくすると寝ている人を起こしてしまうかもしれないからもう少し静かにしないと」
「そうだそうだ」

勘右衛門は雷蔵に同調し、野次(やじ)を飛ばす。
しかし三人はあーごめんごめんとか悪い悪いとあやまりながらもあまり反省した様子はない。

五年生が実技実習を終え 忍術学園に到着したのが一刻前。
助けるはずだった者が敵だったり、事前に入手した情報が間違いであったり。割りと散々な目にあったので勘右衛門は早く布団に潜り込みたかった。

「先に上がるぞ」
湯船から出ながら誰に言うまでもなく呟く。
「あ、僕も出るよ。後がつかえるし」
雷蔵と共に脱水所へ ぺたぺたと向かう。

八左ヱ門様。ご所望の手ぬぐいで御座います。
はいはいどーも。
二人同時に洗えば効率がいいのに。

背後から聞こえてくる声に対して、勘右衛門は元気だなぁと息を一つ吐いた。
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