マリオネットワルツ

□まぎれなく
1ページ/6ページ

潮江文次郎は寝不足のせいか、常に目の下に濃い隈(くま)を浮かべていた。もはやそれが普通になってしまっているのだか。
そのせいか、気の弱い下級生からは少し怖がられてもしている。

しかしたった今、食堂のせまい通路で 久々知兵助と尾浜勘右衛門の脇を通っていった潮江文次郎の顔つきは、いつもより目つきの悪さが二割増だった。
つまり非常に機嫌が悪そうに見えた。
少なくても兵助にはそう見えた。

時刻は昼時。食堂は満員状態だった。
昼食をとる忍たま達の中には、当然下級生もいた。
そんな下級生の忍たまが、いつもより険しい顔つきの潮江文次郎を見ると、口に運びかけた箸をぴたりと止めてしまう。
怖いのも多少はあるが、それ以上に迫力を感じるらしく、今までしていたおしゃべりを止めてしまう位には、何か感じるものがあるようだった。
当の本人は下級生の視線に気付かないようだったが。
空になった食器をのせた盆を配膳台(はいぜんだい)に置いて、食堂から出ていってしまう。

「潮江先輩、機嫌悪そうだったね」

定食の盆を持ったまま、尾浜勘右衛門が食堂の入り口を見ながら呆然と呟いた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ