マリオネットワルツ
□その目に留まる
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言おうとした言葉と口から出た言葉が全く違うことに仙蔵は気がつかなかった。
それだけ「それ」に気を取られていたのだ。
文次郎と留三郎は何の事か分からず、顔を見合わせる。そして仙蔵の視線を釘づけにしている物へ目を向ける。
「ろ組の連中だな」
文次郎が見たままの事を言う。
確かに六年ろ組の二人組の忍たまが歩いている。
二人とも少々険しい表情をしているが、それ以外は特に変わった様子は無い。
だが、仙蔵の興味を引いたのはその忍たま達では無かった。
「違う、連中の後ろにいる奴だ」
そこまで言うと文次郎と留三郎も
「それ」に気付いたようだった。
ろ組の忍たまに少し距離を置いてついて行く、深い赤色の長髪をもつ青年。
「狭野橋じゃねーか」
留三郎の言葉に仙蔵と文次郎は驚く。
「誰だ?」
仙蔵の質問に留三郎は手短に説明する。今日六年は組に転入してきたこと。名前は狭野橋上総だということ。
「狭野橋はなんつーか、少し変わった奴だ」
そんなことをしている内に、ろ組の忍たまと上総は校舎裏の方へ行ってしまう。
「何しにいったんだ?」
留三郎の疑問には仙蔵も文次郎も答えられない。
すると。
「おーい!仙蔵、文次郎、留三郎!」
食堂の方から三人の友人である七松小平太が走ってくる。
「定食、もう無くなるみたいだぞ。急げ!私と長次の定食は無事確保したがな!」
それを聞いて伊作の分の飯ももらわねぇと、と言いながら留三郎は食堂へ走り出す。
はやくーと小平太に急かされ、仙蔵と文次郎も足を速める。
仙蔵は何となく、ろ組と上総の歩いて行った方を振り返る。
当然誰かいるはずも無く、ただ静かに木漏れ日が地を這っていた。