夢想
□極彩色で、胸を焦がして。
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黒い空には
そこだけ切り取ったかのような白い月。
夏の煩い虫も寝静まり
静けさに包まれた城で一人、自室から月を見上げる。
「―――小太郎。」
微かな気配を感じて振り向けば、部屋の隅の闇がゆらりと揺れ、人の形を成した。
ぼんやりとした月灯りの中でも鮮やかな赤髪。音もなく視界に現れた愛しい人。
「Ha…お前なぁ。こういう時くらい、兜とって来いよ。」
苦笑しながら言うと、もどかしくなるくらいの緩慢な動作で兜をとった。普段人前では絶対に兜をとらないというから、やはり抵抗があるのだろう。
それを待ってから、小太郎に向かって両の手を伸ばす。俺の手をとると同時に引き寄せると、俺の前で正座した。
「No…もっと、近く。」
「…………」
意地悪く少し笑って呟けば
繋いだ両の手を離し、そのまま伸ばされた腕が背に回り、俺の身体は小太郎の腕の中に収められる。
小太郎の顔上半分程は長い前髪によって隠されているので表情は見えない。俺は左手で頬の化粧をなぞりながら、反対の手の指でその前髪をゆっくりと梳く。
「なぁ…」
「………?」
「お前の瞳の色…知ってる奴、俺だけなんだよな。」
もっと、よく見せろよ?
そう言って、自分の顔を近付ける。
目と鼻の先に誰も見たことのない瞳がある。静かな優越感に浸りながら、その瞳に見入っていると
ふいに、唇を奪われてしまった。
「…こた、ろう?」
自分からは滅多にしてこないのに珍しい、と俺が目を見開き驚いていると、小太郎は腕に少しだけ力を入れて俺の肩に顎を乗せた。
「…政宗。」
「ん…?」
耳元で囁かれる小さな低い声。
ぞくり、と背中に何かが走る。
「…月灯りに」
「月?」
「背を向けていて…政宗の顔が見えないから」
もっと近くで、見たいと思って
「馬鹿…理由になってねぇよ。」
Kissしちゃあ、結局見えないだろうが
わざと不機嫌な声で反論して。
それでも、今
お前の瞳は笑みに細められているのだろうから。
そんな表情も見たい、と
小太郎の肩を押し、再び顔を合わせ、
そして
もう一度、
――end
(俺達を包む色は闇と、
小さな月明りしかないけど)
(お前の瞳の奥にある
極彩色で、胸を焦がして)