夢想
□仄暗い
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最後の夜に。
二人が逢える、その最後の夜に。
「竜の旦那。」
俺は
いつものように愛しい人の部屋へ、忍び込む。
少しばかりの切なさを
気取られぬように。
顔に、薄い笑みを貼り付けて。
いつものように。いつものように。
ただ、いつもと違うのは。
アンタに向ける、俺の表情と。
部屋に灯りが灯されていない事。
・・・「二人」の、明日はもう無いこと。
「もう逢えないよ。」
唐突に切り出した言葉。
それは、何かを振り切るかのように。
「わかってる。」
「明日からは、殺し合わなきゃあならないんだ。」
「あぁ・・・わかってる。」
「・・・俺さ、アンタの事好きだよ。でも、竜の旦那を好きになる前に武田に仕えるって決めたから。真田の旦那の為に戦うって、自分に誓ったから。」
「アンタの為には、戦えない。」
ごめんね?
言葉の端に、短い謝罪を添えて。
暗い暗い暗澹。
訪れる静寂。
「わかってるさ。」
破ったのは
呟きにも似た、小さな声。
しかしそれは明瞭に。
「そんな事は、最初から。」
月明かりに浮かんだ姿。
真っ直ぐに視線を合わせる。
その瞳は
とても綺麗で。
俺は少し
もどかしかったよ。
END
器用な人間を装う。
不器用な二人・・・