夢想

□俺が俺で、彼が彼で。
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愛した理由を問われれば

・・・それは










■俺が俺で、彼が彼で。■





任務帰りの夜空。
俺はぶらりと鳥にぶら下がり、お得意の空中飛行で帰路を辿っている。


そこだけ ぽっかりまぁるく切取ったかのような月と
一面にちらちらと一生懸命に瞬く星が綺麗な夜。


そんな思わず誰もが見上げたくなる夜空に
俺は必死に月夜に照らされた地上に目を凝らしていた。


「ぁ・・・!!」


そして俺の目はお目当ての人の姿を捉える。

「(独眼竜の旦那、発見!!!俺ってばツイてる〜♪)」
日頃の行いが良いからかねぇ?


そんな事を呟いて、俺は愛しい人の隣に着地。


「独眼竜の旦那、今晩は♪なにしてんの、こんな夜に??」

「Ah?・・・今晩は、じゃねぇよ。お前こそなんだ??此処は伊達領だぜ。」
突然現れた俺に、独眼竜の旦那はさして驚きもせずそう言って
足も止めず、視線だけを此方に向け、睨む。

「(お〜恐い恐い!!)まぁまぁ、良いじゃない・・・今さ、俺様任務帰りで疲れてんの。そんないたいけな忍びを追っ払うなんて無粋な事、してくれないでよね?」
「逆だろ逆。疲れてんならさっさと自分とこへ帰りな。」
「あらら、冷たいな。」

突然隣に現れ、ニコニコ敵方の忍びが笑うのも可笑しいけどさ


もう少し愛想良くしてくれても、損は無いと思うんだけどね?





こんな様子じゃ


今夜みたいな月夜はアンタが散歩してるだろうなって、柄にも無くちょっと期待しただとか。





アンタに逢いたくて、わざわざ任務帰りに寄り道してますなんて。








口が裂けても言えないよ。






「分かった分かった、んじゃ大人しく帰るよ。その代わり、一つ答えて欲しい事あるんだけど。あ、国とか任務とか全然関係ないから。良いかな??」
「No、だな。どんな質問にせよ、何で俺が敵国の忍びの質問に答えなきゃいけねぇんだよ。」

「あ、良いの?竜の旦那、どうせ御忍びでしょ??こんな夜中に一人で殿様が歩いてるんだから・・・・・なんなら、俺があの片倉って人呼んできても良いよ?まぁ、お小言は避けられないと思うけど。」
「チッ・・・OK、答えてやるよ。」

そう言う独眼竜の旦那はとても不服そうで。

それでも断らないのは、余程あの片倉とかいう人が恐いのだと思った。


「さっすが、独眼竜の旦那!!話が分かるね。」
「ふん・・・で、聞きたいことは何だ?」





「うん、あのさ・・・中国の元就公と恋仲ってホント??」
「なっ・・・・・!!!!!」

俺の質問に竜の旦那は足を止め、本当にバッって音がする位の勢いで此方を振り向く。

「な、おま、何で、お前がそんなこと!!!!!」
「おー、面白いくらい反応するね。俺様、誰が、とはまだ言ってないんだけど?」
「うるせぇ!!茶化すな!!!何で忍びがそんなこと知ってんだ?」
「忍びを甘く見たら駄目〜。しかも俺様は優秀なんだから。情報は色んな所から入ってくるの。」



知りたくない事でもね。





いつも落ち着いている彼が(戦以外だが)此処まで取り乱す姿を見られるというのは貴重な事なのではないだろうか。


淡い月明かりに照らされた彼の顔も、心なしか紅いように思う。


あ〜あ




質問の答えを聞くより、
顔を見れば分かってしまうなんて。





決定的じゃん。




「ふーん、やっぱり本当の話だったんだ。」
「だったらどうした・・・お前には関係ないだろう。」
「あらら、答えてくれないの?」
「・・・っShit!!・・・・・あぁ、本当だ。これで満足か?」
「はい、どうも有り難う御座います♪でもさ・・・人の恋人を悪く言いたくは無いけど、正直元就公はどうかと思うよ?いい噂聞かないし。自軍の兵にすら恐れられてる、冷酷な奴だって聞いてる。愛とか恋とか知りませんって感じ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

あ、マズイ。

怒らせちゃったかな?




竜の旦那はまた歩き始める。
俺はそれを追う。



俺の言葉に、独眼竜の旦那が無言を返してきた。
まぁ、好きな奴のこと悪く言われたら当然かと思って
謝罪の言葉を述べようと口を開くが、
一瞬先に竜の旦那が喋り始めた。








「確かに、な。」
「へ?」

「確かにあいつは全く愛想というものが無い。目付きも悪いし、何かあればすぐ眉間に皺寄せて、唯でさえ口数が少ないのに、口を開けば皮肉めいた事しか言わねぇ!!」
「りゅ、竜の旦那・・・??」


予想外の反応。
怒ったかと思ったのに・・・一体どういう事だ?


竜の旦那の喋りは止まらない。


「恋人同士だってのに滅多に俺の前でも笑わねぇし?本当に色恋事なんて知りませんって感じだな!ある意味希少価値が高い。あんな奴他にはいねぇよ。」
「希少価値って・・・竜の旦那、本当に好きなの?元就公のこと。てか本当に恋人??」


前を行く竜の旦那。
顔は見えない。



そして
彼は立ち止まり、振り返る。



「愛とか恋とか、確かに知らねぇ。・・・・・それでもよ、頑張ってるの、分かってっから。」












「あいつはあいつなりに、それを知ろうとしてる。それが、分かるから。」


不器用なんだよ、あいつは。









そう言って、小さく微笑む彼。

その笑みを

何よりも美しいと思った。

この夜空に瞬く星より輝き
それでいて彼を照らす月の光より淡く儚い。







目が合っているのに。
その唯一つの瞳。
そこに映っているのは、俺じゃなく

俺じゃない他の人で。



それでも、もどかしさを覚え、嫉妬をする前に





その笑顔に見惚れてしまった自分に苦笑して。

「・・・・・答えになってないよ。」
負け惜しみのようにそう呟く。


「Ah?」
「まぁ良いか!・・・んじゃ、約束どおり退散しますかね?」

・・・ご馳走様!!!


皮肉げにそう言って
俺はまた宙に舞い戻る。




下のほうで独眼竜の旦那が何か言っていたようだが
きっと先ほど自分の放った皮肉に対する文句だろうから、敢えて聞こえないフリ。
・・・いくら好きだからって
わざわざ自分から面倒ごとに飛び込んでいくほど、俺様も暇じゃあないんでね。

って
恋人がいる人を好きになってる時点で、面倒ごとに飛び込んでんのか。




勘弁してよ、竜の旦那?








夜空の飛行は続く。

「・・・それにしても、あの話が本当とはね。」


自分から本人に確かめておきながら
いざ聞いてしまうと、心が痛かったり。


あれ、俺ってこんなに乙女だったか??



そんな呟きも、夜の闇に溶けてゆく。


「ま、諦めるつもりは無いけど。」

そう言って、口の端を小さく上げ、笑う。







入り込む隙がないなら



作れば良いのさ。




諦めの悪さと、狡さは

仕事柄ってことで。



想いで負ける気もしないし。


まぁ、考えてみれば
俺が惚れるくらいの魅力的な人だから。
恋敵の一人や二人、居てもおかしくは無い。




そうでなくっちゃ、面白くないってもんだよ。
















何故、彼なのかと問われれば

俺が俺で






彼が、彼であったから。






それで
充分だろ?











そして
俺は独り
月に宣戦布告をする。



END

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