夢想

□申し子の矛盾
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「寒っ…」

校門にもたれかかりながら思わず呟く。
ちょうど目の前を通りすぎた見知らぬ生徒が、少し訝しげな目をちらりと寄越してきたが気にしない。原因は分かっている。
俺が着ている制服はブレザー。
今目の前を通りすぎた生徒の制服は学ラン。つまり、俺は他校の校門前につっ立っている訳だ。

既に30分以上寒空のもとで待ち続けて、たくさんの奴らが俺の目の前を通りすぎたが、待ち人はどうやらまだ教室の様だった。

「Shit…小太郎の担任、説教長ぇよ。」

ここに来る途中、小太郎からメールがあった。
「担任の説教で遅れる。ごめん。」とだけ書かれた文を見るに、先生の目を盗んで急いで打ったのだろう。
説教と言っても、小太郎が問題を起こす訳がない。恐らく、誰か他のクラスメイトが問題を起こして、クラス全員が説教の巻き添えを食らっているといったところだ。

「はぁ…」

吐く息の白さに、空気の冷たさを確認させられる。マフラーで口元まで覆って寒さに耐えるのだが、手袋のない手は氷の様に冷たいままだ。
ポケットに入れていてもいっこうに温まらない。仕方なく冷える両の手を擦り合わせてみるが、ほんの一瞬温かくなるだけで、すぐに指先から冷えていくのがわかる。



「…伊達、か?」
「Ah?…なんだ、元就じゃねぇか。」

苗字を呼ばれ声の方へ振り向くと、同じクラスの毛利元就がいた。
他校の門の前でこんな時間にクラスメイトに会うとは。


「…生徒会の用で遅くなった。我の家はこの通りを通って帰るのが一番近いのだ。」
「ふーん…成る程、な。」

何故ここに、という疑問が顔に出ていたらしい。
元就は道に目をやりながら俺に丁寧な答えをくれた。
そういえばこいつは次期生徒会長だったな、なんて考えていると、少し不機嫌そうな奴の目と合った。

「そなたこそ、こんな所につっ立って何をしている。他校の前で…目立つであろう。まさかとは思うが…喧嘩でも売りに来たのか?」
「ばっ…ただの人待ちだ、人待ち!別に喧嘩しに来た訳じゃねぇよ。」

とんだ勘違いだ、と笑いながら返す。

俺のイメージはそういうものなのかと心の中で苦笑いすると、再び刺すような冷たい風が吹いて、俺は両手を擦り合わせた。


「おい。」
「?」
てっきりそのまま帰るもんだと思ったが、予想に反し元就は俺の前を通過せずに目の前で止まった。

「…もう随分待っているのか?」
「あぁ、まぁな。ここまでくれば意地だ、意地。別に、待たされて悪い気はしないしな。」
長いHRから解放されたあいつが急いで走ってくる姿を考えてれば、寒空の下も苦じゃないとは…言えないが。

すると元就は自分のコートのポケットをあさり始めた。
candyでもくれるのか?と聞いたら、飴が欲しいのかと逆に問われ困った。

「飴ではないが、これをやる。…ではな。」
「え、でもこれってお前…」


手渡されたのは温かいカイロ。
ずっとポケットに入っていたのだろう。少し熱いほどの温かさが冷えた俺の指先にじんわりと染みた。

「おい、元就!」

渡すだけ渡して、すたすたと家路に着こうとする背中に声をかけると、肩越しに元就が振り返る。

「…なんだ。」
「なんだ、って…お前の家ってまだ先にあるんだろ?これなかったらお前が寒いんじゃ…」

コートにマフラーと、元就の格好は制服とマフラーのみの俺に比べて暖かそうだったが、鞄を持つ元就の手は俺と同じく手袋をしておらず、とても冷たそうに見えた。


「ふん…我は日輪の申し子ぞ。そんなもの、必要ないわ。」
「……っはぁ?」

得意げな顔の元就。
思わず変な声を出してしまった。
何故そこで日輪なんだ。
日輪の申し子ってなんだ?日輪の申し子だと温かいのか?太陽の出てないこんな曇りの日もか?

たくさんの疑問符を頭の上に浮かべている間に、元就が再び歩きだした。慌ててもう一度背中に声をかけるが、二度はその足を止めてくれなかった。

「Thank you!元就っ!!」
仕方なく遠ざかっていく背中に礼を述べる。しかし、元就から返事が返ってくることはなかった。







「というかそもそも、必要ないなら何で持ってんだよ…。」
「……?」
「いや、こっちの話だ。…どっか寄って帰るか?小太郎。」

長い長いHRが終わり、小太郎と一緒に帰る途中。
次期生徒会長の矛盾に気付く頃には、俺の指先は温かさを取り戻していた。


申し子の矛盾
(そう、そんな、矛盾さえ計算済みなのだから)
(気付け……愚か者め)


end


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居残りとかより、他のクラスメイトの巻き添えで説教食らって残らなきゃいけない時ってありませんでしたか?



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