欠月

□嫌いと苦手
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 見上げた先にあるの
 は、果てしなく続く
 空とつき抜けるような
 青。まるで 全てが
 吸い込まれていきそう
 な――…。





タンッ、タンッ、タッ…




   …がちゃっ! 




 「屑桐くーんっ!!」




 …またかよ!くそッ。



 「 …なんだよ…」



屋上で一人空を仰いでいると、必ずといっていい程に現れる このお邪魔虫。
…折角、気持ち良く寝れそうだったというのに…‥



「うん、あのね!次の
 授業の事なんだけど…、 僕達 日直だろう?
 先生がね、授業の用意
 するのを 手伝って
 欲しいって。 」


人のうんざりした顔にも
気付かずに、ありえない程の笑顔でオレに話し掛けるコイツは、何故か最近
オレの周りによく出没する、変な奴だ。



「…興味無い。というより も、次の授業に出る気は ない。」

「…え、えぇっ!次も
 出ないのかい、君?」



それが人の時間を邪魔しておきながら言う台詞か?
あからさまに不機嫌になりつつ、オレは答える。


「…なんだよ?説教でも
 する気かよ 優等生。」


隣の席である牛尾御門は、学校中が知っているというぐらい有名の、品行方正な優等生だ。おんなじ中坊のくせに高校生なみに頭がいい上、周りに対する外面も良くて、教師や同級生にも一目置かれている。

極め付けに家がかなりの金持ちらしく、いつも豪華な弁当を取り巻き達と食っている。(たかだか中学校の弁当に、伊勢海老なんか入れて見せびらかしてンじゃねーよ、タコ!!!)


…大体、いつだってコイツの周りにはウザイ程に人が溢れている。だから別に、オレに係わってくる必要はないはずだ。それに自慢じゃないが、入学してこの方、このオレと目を合わせようとする者など不良ぐらいのものだったぞ…。(喧嘩をふっかけてくるような馬鹿共いがい、誰も近付いて来なかったからな。)


周りは必要以上にオレを怖がって避けていたし、オレも人と群れ合うなんて面倒な事はゴメンだったから、それで調度よかったんだ。



…それなのに…
周りがオレを避ける中、
コイツはいつもオレの側にやって来て、好き勝手に喋り続ける。

(まぁ、同じ部活だからなのだとは思うが…。)
あまりにも無防備に近付いてくるから、ついつい怒るタイミングを見失ってしまう。

…はっきり言って、オレはコイツが「苦手」だ。



「…そんな事する気は
 ないよ、ただ その、
 残念だな‥って。」


ほんの少し目を伏せて、
牛尾が呟く。


「…‥?何がだよ。」


「君、最近いつも授業に
 出ないから…。
 その、話す機会が
 あんまりないな、って」


「・・・・。」



…別に、テメェに残念がられる事なんてねぇよ。

大体、テメェとオレじゃ、話す事なんかねぇだろ。

それとこの際だから言っておくが、オレは、オマエが苦手だ。

(…だからもう、金輪際
オレには近寄るな。)




「―――…予鈴鳴るぜ?
 もう、行けよ。」


「え?わっ、本当だ!
 大変、急がなくちゃ!」



中学生に似付かわしくない、見るからに高価そうな腕時計で時間を確認し、
牛尾は慌ててドアの方まで走りだす。

そしてドアのノブを回しながら振り返り、


「次の授業は体育だから、 ちゃんと出ようね!」


相変わらずの笑顔で
そう言って、階段を降りていった。



…金持ちは好きじゃねぇ。外面がイイ奴も、オレの
時間を邪魔する奴も…。
(ついでにオレの球を打ったり、弁当に伊勢海老いれてたり、ガキのくせに上等な腕時計してるのも気に喰わねぇ…‥ってあれ、たしかロレックスっていうんじゃねぇのか??)


アイツは全部、オレの
嫌いな項目に当てはまっている。
それでも一瞬、オレが言葉を飲み込んだのは…‥、


きっとオレは、アイツの遠慮なく話し掛けてくる時の声や、屈託なく笑って見せるあの笑顔が…‥

なんとなく、「嫌い」じゃないからだ。




 …オレの中の空気を
 乱す、変な奴。
 だから オレは、アイツ  が「苦手」だ―――。




          END
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