欠月
□幻想女神
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『アンタの女神は
もういないよ。』
冷たい机に顔を押しつけられ、何度となく揺さ振られる。意識が朦朧とする中で、その無機質な冷たさと、犯され続けている箇所の感覚だけが、今の自分の意識を留めている。気を失う事も出来ず、抵抗の手だてもなく黙って奴に犯され続けている自分の姿は、なんと情けなく、惨めなものか。
「…ぐゥ、ッ…!」
何か紡ぐもうとする口内からは血の独特な鉄臭い味がした。…どれだけ唇を噛み締めても、今の凌辱に対する苦痛は紛れない。犯される痛みと、屈辱。そして、奴に対する怒りと殺意だけがオレの中で尽きる事なく燃え続けていた。
「‥…っ、…ははッ!
気持ちイイっスか〜?
無涯さん…。」
「……‥。」
「ま、無理矢理にツッ込ま れて犯されてンだから、 イイ訳ないケド…。
でも…ッ、大丈夫です
よ〜? こ‥れから、
どんどん気持ちヨクッ
…なりますからね〜!」
いつもの様な軽口を叩きながら、腰の動きを速くするコイツに激情を煽られる。…今すぐにでも、殺してやりたい。普段なら考えもしない様な猟奇的な殺人も、今ならば犯してしまえるだろう。
「―…う ッ、っ!」
くぐもった奴の呻き声と共に、オレの体内に何かが出される。…「何か」などと言わなくても、自分の中に流れているものが奴の精液だという事ぐらい、分かっている。
―――吐き気が、する。
ズルリ、とオレから自身を抜き、手慣れた動きで身仕度を整える御柳。…オレの方は、両手を後ろで縛られているせいで未だに身動き一つ取れずにいた。
「…‥ッハ!…あ〜、
気持ちヨカッタ…‥!
アンタを犯すの、マジ
感じた。」
――うるさい、黙れ、今すぐ死ね。
「アンタみたいな処女を
犯すのってサ、
マジたまんね―…。」
「――― …!」
「…あ、そんな恐ぇ顔しな いで下さいや。…ぷッ! …‥ホントに、今にも
オレを殺しそうな勢いっ スね〜?屑桐さん。」
オレの顔を自分の方に向けながら、奴は満足そうに喋り続ける。薬を飲まされ体がいうことをきかないオレは、顔を背ける事も出来ず、ただ奴を睨み続ける。
せめてもの抵抗にと、ニヤついた笑い顔を近付けてきた奴の顔に、唾を吐きかける。顔に付いた唾を拭いながら、やつは特に怒った様子もなく、ゆっくりとオレの目を見つめた。
オレの殺意の込もった目線に対し、奴の目は、どこか妖うい微笑を宿していた。交わる視線にでさえ嫌悪する程に――…オレは、コイツが憎い。こんな奴に凌辱されてしまった自分が情けない。悔しさに噛みしめた唇から、再び鉄の味がした。
オレから流れる朱色に気付いた奴は、親指でオレの口端を拭いながら、とんでもない事を口にした。
「アンタの痴態もカメラに 収めた事だし…?
もう、オレの言う事を
聞くしかないっスね〜? 屑桐さん…‥。」
携帯をわざとらしく見せ付けながら、目を細めた御柳の悪魔的な笑みに、オレの思考は一瞬で凍り付いた。