短編集
□遙かなる思い
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「この間、お父ちゃんのお店に極上イケメンが入社してきたんだよね」
辻丸 燿子がつい自慢げにその話をしたのは、うらやましさのせいだった。
いつもつるんでいる明美と美幸には同学年の彼氏がおり、年上好みの燿子には浮いた話ひとつない。
一度、同級生に告られたことはあるが、同年代の男子など子どもぽくって、友だちにもなる気がしなかった。
だけど、ふたりが仲良く恋話に花を咲かせているのを見ていたら、何だか仲間はずれにされた気分になり、恋する乙女みたく参加したくもなるものだ。
だから彼の話をした。真鍋光平の話を。
彼がイケメンなのは本当だ。落ち着いた寡黙な二十五歳。
燿子のドストライクだ。
営業職として寡黙なのはどうかと思うが、あの整った生真面目な顔で理路整然と物件の紹介をされたら、誰だって言われるまま契約を結んでしまう。
女性の契約成功率はほぼ百%だ。
だからと言って、いい加減な仕事をやってるわけじゃない。
彼の仕事に対する姿勢は誠実で、それぞれのお客に合わせた最適な物件を紹介している。
度々、辻丸不動産に入り浸っている燿子にはちゃんとわかっていることだった。
「マジ?」
最初に食いついてきたのは明美だ。
「見たい!見たい!見たい!」
次いで美幸がごね始めた。
燿子は、真鍋の話をしたのは間違いだったのではないか、とチラッと思った。