繁殖の巫女(R18)

□繁殖の儀
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 出産に関してあり得ない行為が出てきますが、そこはファンタジーとして大目にみてください。出産への冒涜と思われる方は読み飛ばしていただくことをお勧めいたします。
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 カナムの赴任した子孫繁栄の神殿は王都から馬で約5時間、メギ山の中腹に建っている。彼は王都でも神官長であったが、メギ山の神殿はすべての子孫繁栄神殿の頂点であり、異例の大出世あった。
 それもこれも前神官長が処刑されるという前代未聞の一大事に至ったからだ。ムスカリは何を血迷ったか、神の遣わされた乙女に危害を加えるという大罪を犯していた。巫女は一時期、命を危ぶまれ、その後丸1日眠り続けた。
 繁殖の巫女のいらっしゃる神殿に神官長が不在などあり得ないと、メギ山の麓に広がる王都にいた彼が取り急ぎ次の神官長に選ばれたというわけだ。

 繁殖の儀を支える顔ぶれのひとりである病払いの神官長からの提案で、巫女に及ぼす影響を鑑みて、ムスカリの処刑は秘匿とされた。対外的にはムスカリは失脚したことになり、処刑された夜に勤務していた者や身内は口外を禁じたうえ、移動となった。

 面会した巫女を見て、カルカヤの判断に納得した。異界から来た乙女はまだ年端もいかない少女だった。伝説に聞いた通りの黒目黒髪で、トレニア人にはない象牙色の肌をしていた。華奢な体格に妊婦の証のふくらんだ腹が痛ましい。
 こんな少女に血生臭い処刑の話などとんでもなかった。

 聞けば生前ムスカリは、厳かであるべき儀式を都合のいいように捻じ曲げ、巫女を情欲の対象にしていたようだ。
 例えば交接の儀は時間をかけて王子たちと情を育み、重力の魔法なしで行うべきであった。あれほど麗しい王子たちなのだから、いずれ巫女も情が湧き身をゆだねたはずだ。
 儀式のあとの子種栓は仕方ないとして、わざわざ寄ってたかって子種が注がれたか確認するなどただの辱めでしかない。
 繁殖札にしても、巫女の姿形を写し取った札に、あるいは刻んだ巫女の髪を練り込んだ札に念を込めればいいものであって、決してあられもない姿である必要はなかったのだ。
 ましてや能力固めの儀などという儀式はなく、これは完全に前神官長の煩悩を満たすためのでっちあげだった。トレニア国の救世主である彼女に、恥辱の限りを尽くしたムスカリは処刑されてしかるべき男であった。

 そのような行為がまかり通っていたのは、繁殖の儀が門外不出とされ実態を知る者が彼以外にいなかったのが大きいだろう。こういう儀式だと言われれば、誰も逆らえない。
 過ぎたことは取り消せないが、せめてこれからは定めに則って行っていくのが我が使命だと心得た。

 まずは繁殖の儀に関わる面々には儀式のすべてを公開し、巫女の尊厳を守る方法で行うと宣言した。
 危険なので外には出せないが、巫女にはある程度の自由を与え、できるだけの要求を叶えることとする。欲しい物があれば――さすが異世界人だけに変わった物が多い――取り寄せた。そのあたりは財力の神官長が大いに役に立ってくれた。取り寄せに苦労はしていたが、巫女が心から喜んでくれるので、ハルニレもうれしそうだった。

 変革が効いたか、巫女のかんしゃくがなくなったと、カルカヤが自分のことのように喜んでいた。

 病払い師とともに御子の魔影を診るルピナスは、巫女の笑顔にあてられどうやら恋をしたようだ。若者らしいはにかみ顔で彼女に話しかけ、なんと魔法芸までやって見せた。冗談が通じないと言われる男が、変われば変わるものだ。

 バンダは身重になった巫女を心配して、どこへ行くにも抱きあげようとするので、彼女に迷惑がられている。なんでも身ごもって増えた体重を恥じているそうだ。
 子を宿すことほど名誉なことはないのに、異世界人の感性は誠に変わっていた。

 そうして順調に日々を重ね、巫女は繁殖の儀を迎えた。出産の前触れはここのところ寝食をともにしていたカンナから伝えられた。巫女が破水したというのだ。
 深夜だったが、繁殖の間が整えられ、神官たち全員がそろった。王城へはかねてからの取り決め通りのろしで知らせる。明け方には王族もたどり着くだろう。儀式には神官たちと王族しか立ち会えないことになっていた。

 はち切れそうな腹の巫女がバンダに抱かれて繁殖の間にやってきた。今のところ陣痛は治まっているが、少女の顔は緊張でこわばっている。

 「巫女姫さま、ご安心ください。私たちがついております」繁殖の褥におろされた少女に声をかけた。

 「カナムさん、はんぱなく痛いんだけど、こんなんでちゃんと産めんのかな?」勇敢で知られる巫女も、さすがに今日は不安そうだ。改革で信頼してもらえたか、弱音を聞かせてくれた。

 「大丈夫です。カルカヤ殿はこれまでも赤子を取りあげておられる。御子のご様子はルピナス殿が油断なく診てくれますし、バンダ殿とハルニレ殿はお産が滞りなく進むよう備えてくれています。このカナムも巫女姫さまの産みの苦しみがなるべく楽になりますようお手伝いさせていただきます。なにより巫女姫さまにはメギ神がついておられるではありませんか」少しでも安心させようと小さな頭を撫でつけた。

 と、少女の顔が苦痛に歪んだ。どうやら次の陣痛の波が襲ってきたようだ。横向きになり、小柄な身体をさらに縮めた。歯を食いしばり、男にはわからない痛みに耐えている。
 繁殖の間は張りつめ、全員が彼女の痛みを我がことのように受け止めた。

 緊迫した数分が過ぎ、巫女が息をついた。それを合図に全員が動き出す。病払い師が具合を訊き、魔法使いが御子の位置を探っている。
 カナムは力自慢の戦士に大量の湯を運ばせ、オロオロするばかりの財力の神官長にあるだけの布と聖水を持ってこさせた。

 「巫女姫さま、お産に備えて膣口をほぐしますよ」

 「え?何?」早くも巫女は疲労して、それどころではないようだ。

 「御子さまがお出ましになる前に少しでも膣口をやわらかくしておけば、お産の痛みを和らげられます」
 これは産みの苦しみを軽減する処置として古文書にあったものだ。

 「ちょっとでも楽になれるんなら、お願い」よっぽどつらいようで、お許しが出た。

 「失礼します」
 カナムは他者から見えないよう、夜着の合わせから手を入れた。
 巫女の肌は熱く汗ばんでいる。大きな腹の下、太ももの付け根に、ハルニレから受け取った聖水を塗り込んだ。

 少女の雌陰は子を産み出すにはあまりに小さい。このまま出産に至れば、痛みは想像を絶するだろう。

 恐れに凝り固まる巫女の緊張をいかにほぐすかは彼の手腕にかかっていた。
 幸いなことに彼は若い頃から女性にもて、性の知識も経験もそれなりにある。そのおかげで3人の女性との間に子をもうけ、子孫繁栄の神官長にまで昇りつめた。

 カナムは快楽の芽を探り、指先でなぞった。

 少女の身体がピクリと反応する。

 彼は構わず聖水のぬめりを指にまとわせ、しこりをこすった。慌てず焦らず、単調にこすりあげていく。

 少女の気が恐怖からそれた。緊張した顔からこわばりが解け、頬が色づき始めている。小さなしこりもだんだんと固くはっきりしてきた。

 カナムが淫芽を親指と人差し指でつまんだところで、また巫女が痛みに苦しみ出した。
 彼は一旦、愛撫をやめ、彼女が痛みを乗り切るのを待つ。小さな身体から力が抜けると、水を飲ませて休ませ、愛撫の続きを始めた。快楽の芽を刺激して恐怖を紛らわせつつ、いよいよ膣口のほぐしにかかった。
 繊細な襞をかき分け、つゆの出具合を確かめる。少なければ聖水を足さなければなるまい。あたたかいぬめりを確認すると、浅い指の出し入れから始めた。妊婦の様子を見ながら、かき回し指を増やし拡げていく。ここまですべて手探りの作業だ。
 陣痛と休息、ほぐしを何度か繰り返したところで、いよいよ病払い師の出番となった。

 カルカヤは周りから見えないように下半身に掛布をかぶせてから、大きく脚を開いた。
 「これから視診いたします」断りを入れてから、掛布の下に頭を突っ込んだ。
 何をやっているのかは見えないが、いちいち知らせてから診察を進めている。
 病払い師の診察によると、子壷の口がすでに3センチほど開いており、御子のお出ましまでもう間もなくだとか。陣痛の間隔は短く、妊婦はつらそうだ。

 この頃になってようやく王族が到着し、繁殖の間の一角で一塊になってお産の様子を見守った。

 妊婦がひっきりなしに苦しみ出すと、ますます空気は緊迫した。少女は赤くなった顔を歪め、玉のような汗をかいている。苦痛に耐えきれず声をあげて身をよじると、ギラン王子がなんとかしろ、喚き、歩き回った。心配が頂点に達し、じっとしていられなくなったのだろう。

 カルカヤは、バンダを寝台にあがらせ、巫女姫の背中を支えさせた。座った体勢の方が腹に力を入れやすいのだとか。そして父親となるシオン皇子を呼びつけ、少女の手を握らせた。

 ハラン陛下は見守りの姿勢だが、シラン王子は完全に空気に呑まれ怯えていた。

 その間もルピナスは魔影の動きで胎児の状態を診ている。

 ハルニレは及び腰ながらも、巫女の額の汗を拭ったり、役に立とうと懸命だ。彼自身も妊婦に負けないくらい汗をかいていた。

 カナムはメギ神に祈った。香を焚き祝詞をあげ、巫女の無事の出産を祈願する。
 繁殖の間は祝詞と妊婦のうめき声で異様な雰囲気だった。

 「御子さまの頭が見えてきましたよ!」カルカヤが叫んだ。「このまま一旦、休んで、次に私が声をかけたら力んでください。ルピナスは合図に合わせてお腹を押すように。いきますよ。はい、息んで!」

 思わず自分まで力んでしまいながらの長い1分が過ぎた。

 「ふんぎゃあ〜!」
 この世界の誰もが恋焦がれてやまない愛おしい声が繁殖の間に木霊した。新たな希望の誕生だ。

 場は一気に安堵に包まれ、歓喜に沸いた。笑顔など見せたことのないカルカヤが笑い、ルピナスとハルニレは泣いている。
 バンダは息を切らす少女を抱きしめ、シオン皇子は泣きぬれたバラ色の頬に口づけした。
 ギラン王子はようやく歩き回るのをやめ、膝に手をついている。シラン王子は腰を抜かし、そのすべてをハラン陛下が見届けていた。

 巫女は引き続き後産に入り、産湯を使った赤子がカナムの元に運ばれてきた。
 紫がかった黒髪に薄桃色肌の男児だ。まだ目の色はわからないが、たぶん黒に近い色をしているだろう。
 差別を避けるために公表はされていないが、子孫繁栄神殿の教えでは巫女の血が濃いほど目と髪の色が黒に近く、繁殖しやすいと言い伝えられている。きっとこの子も多くの子孫を残していってくれるに違いない。

 カナムは赤子を捧げ持ち、メギ神に感謝の祈りを捧げた。
 この日から3日3晩、トレニア国は国をあげてのお祭り騒ぎだった。






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 3人の王子のミドルネームが変わっていますが、裏設定の変更によるもので、本編にはなんの影響もございません。

 
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