イブの夜は更けて(R18)

□再会
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 夏はいきなりやって来た。どしゃ降りの屋外から、ビニールハウスに飛び込んだかのように。暑さに慣れない身体が照りつける熱波にクラクラしている。

 捺希は額に浮かんだ汗を拭い、目の上に手をかざして中古の一戸建て住宅を見上げた。
 ただの中古住宅ではない。私の家だ。父は自分たちが住むために家を買ったが、捺希は投資のために家を買った。
 ずっと貯めていた貯金を頭金にして、残りのローンは家賃で賄う計画だ。うまくいけば、2軒3軒と増やしていくつもりだった。

 初めての大きな買い物に不安がなかったわけではない。
 だが最悪うまくいかなかったら自分が住めばいい、と思ったら、踏ん切りがついた。

 勇司との結婚で懲りた捺希は、燿子をお手本にひとりで生きていく覚悟を決めていた。
 無理のきく今のうちに生活の基盤を固め、何かあったときの経済力を確保しておきたかった。家族との縁が途切れたままなので、なおさらその必要性を感じていた。

 捺希は不動産屋の目で家屋を鑑定した。
 照りつける太陽にさらされ、汚れた外壁がますますみすぼらしく見える。屋根に問題がないのはわかっていたが、雨樋に溜まったゴミの掃除をする必要があった。それに梅雨で勢いを増した雑草が、ぐるりと家を囲っている。生い茂った生け垣も問題だった。

 鍵を開けて中に入った。空気が淀み、カビ臭い。
 捺希は持参したスリッパを履き、家中の窓を開けて回った。ついでに網戸のチェックをし、“網戸を張り替えること”と新たに手帳に書き加える。予算は限られているので、できることはなるべく自分で修繕していくつもりだった。

 とりあえず掃除はすぐにできることだったので、そこから始めることにした。家の中の掃除は畳の表替えをしなければならないので、今やっても意味がない。そこで再び外に出て、家の顔である玄関周りをきれいにした。

 そうしながらもやることリストは増えていく。ひとりでやるには気の遠くなりそうな量だ。時間をかければ何とかなるかもしれないが、それよりも人を雇ってでも短期間で終わらせ、入居者を入れた方がずっと賢い選択だ。

 捺希は作業の手を休め、清掃途中の玄関を見上げた。
 脚立が必要だ。手の届く範囲はきれいになったが、それより上は汚れたままだ。モップも必要だし、この分だとホースもあった方がいい。ないないづくしだ。雑巾と箒で何とかしようだなんて考えが甘すぎた。

 捺希はもうしばらく掃除を続けたが、昼過ぎには道具を片付け家に帰った。業者を探し、人手を頼むつもりだった。





 


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