イブの夜は更けて(R18)
□片思い
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燿子は、座布団を枕に軽いいびきをかいている真鍋を満足して眺めた。
1週間の疲れで一気に酔いが回ったのだろう。年のせいか彼も昔ほど酒に強くなくなった。
だけど今の方が見た目も中身も円熟味が増し、魅力的だと思う。
燿子はタオルケットを広げ、真鍋に掛けた。しばらくしたら、布団に行くよう起こさなければならない。
休み前の宅飲み会も、もう何度目になるだろう?最近では真鍋と捺希に泊まってもらって、帰りの心配をしなくて済むようにしている。何しろ寝る部屋はいくらでもある。みんなひとり身なので、気楽なものだった。
ふたりのお陰でどれだけ救われたことか。
母が亡くなったあとの数ヶ月を抜け殻のように過ごしていた私に、楽しみを分け与え孤独を追いやってくれた。
「寝てしまったんですね」風呂から上がってきた捺希が、初々しい顔で囁いた。
化粧を落とした彼女は、バツイチとは思えないくらい幼い顔になる。張りのある肌がまぶしいほどだ。
「年のせいかな?弱くなったんだよね」真鍋を起こさないように小声で返した。
いつもはおやすみの挨拶をしてすぐに2階に上がるのに、捺希が脚を崩して向かいに座った。
「いつから真鍋さんとお知り合いなんですか?」興味津々の様子だ。
「私が高校生のときだから……」指を折って数えた。「26年かぁ……」しみじみつぶやいた。
その間にいろいろなことがあった。真鍋が結婚し、あとを追うように私も結婚した。その後、子どもが産まれだが、夫の浮気で離婚した。
その間に真鍋は妻と死別して、ふたりの息子を男手ひとつで育て上げたのだ。家族ぐるみの付き合いがあったので、どちらの家の子どもも何度も母の手助けに救われていた。
父が亡くなってからは、慣れない会社の切り盛りに無我夢中だった。
その間ずっと真鍋は傍にいてくれた。
真鍋に目をやった。
深い寝息は続いている。
「ずーっと昔、結婚する前、真鍋さんに告白したことがあるんだよね……」気の迷いか、それとも酒のせいか、ポロッと口をついて出た。
「えっ!?」案の定、捺希は面食らっている。
「いや、真鍋さん、すごくかっこよくて、私も若かったし……。でも、即行でフラれたんだけど……」
ばつが悪くて、残っていたビールを飲み干した。すっかりぬるくなっている。
「それよりも」話題をそらそうと躍起になった。「あの一戸建ての改装、どうなったの?なんだったら私、手伝うよ」
「とんでもありません!」恐縮した捺希が、すごい勢いで首を振る。
「とっても親切な便利屋さんを見つけたんです。今週、仕事の合間に入ってもらって、今、生け垣をやってもらっているんですよ。明日は朝から一緒に片づけることになっているし、ぜんぜん心配いりません」
話をそらすために振った話題だったが、俄然、興味が涌いてきた。特にその“とっても親切な便利屋”が気にかかる。
この年になると、海千山千いろんな人間を見てきた。捺希がろくでもない奴に引っかかっているかもしれないと思うと、放っておけない。
「そうなの?私も見てみたいなぁ……。明日、一緒に行ってもいい?」
捺希が困った顔をした。
「いいですけど、見るだけですよ。手伝いはいりませんからね」念押しする。
「わかった。わかった」燿子は笑顔でかわした。
行ったら、“とっても親切な便利屋”の化けの皮を引っ剥がしてやるつもりだった。