繁殖の巫女(R18)

□子孫繁栄祈願
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 1048年、トレニア王国は少子化が進み、今や人口は20年前の半分。女性ひとりあたりの出生率は0.4人にまで減っていた。
 国王には3人の息子がいるが、これは王家を絶やさないため、後宮制度が導入されているおかげだった。

 「このままでは我がトレニア王国は滅びます!」トレニア国の宰相ガイは、トレニア王につめ寄った。

 「わかっている。だが、前回の子孫繁栄祈願は失敗だっただろ。そのせいで神殿同士がいがみ合っている。儀式は体力、気力ともに使う上、魔力の調整がむずかしい。あの様子じゃまた失敗するぞ」
 ハラン・シャスター・トレニアは憂い顔だ。

 「それでも、挑戦すべきです。成功するまで何度でも。我々にはそれしか道は残されていません」ガイ・トベラは言い切った。
 そうしてこの計画は実行された。



 儀式が執り行われる祠は、子孫繁栄のメギ神を祀る神殿の裏側にあった。というより、古から伝わるこの祠の前に、広く民の願いを受け入れるための神殿を造った、というのが正解だ。天然の祠は魔光石に照らされて、屋外のように明るい。祭壇を清め、香を焚き、石の水盤には聖水が張られている。人々が歩き回り、古の儀式の準備は着々と進んだ。

 丸い水盤を囲み、儀式に参加する全員がそろった。儀式を主導する子孫繁栄の神官長のムスカリが祭壇に立ち、その右側にハラン王。さらに隣に魔力の神官長のミクリ。武力の神官長、バンダ。財力の神官長、ハルニレ。病払いの神官長、カルカヤ。
 祭壇には供物と共に白い布が3つ並んでいる。
 ガイは子孫繫栄の神殿に仕える神子たちと共に壁際に並んだ。

 ムスカリが儀式の開始を告げ、メギ神を称える祝詞をあげた。呪文の唱和が始まり、それぞれが魔力を高めていく。魔力は強すぎても弱すぎてもいけない。同程度に調整し、水盤に注ぎ込んでいく。ミクリが自分の魔力でもって水の上を漂う魔力を編み込み、水の底に沈めた。

 時間は過ぎていく。1時間が過ぎ、2時間が過ぎ、水盤を囲む者たちの集中力も途切れかけた頃、水の表面にかすかな波紋が生まれた。

 ここまでは前回と同じだ。前回はさざ波が立っただけで、何も起こらなかった。
 ガイは固唾を呑んで、儀式を見守った。

 王と神官たちは気合を入れなおし、魔力を注ぎ続けている。
 さらに水は波立ち、水盤の底に小さな丸い影が現れた。黒いそれは、およそ水深10センチの底から、大きさを伴い盛りあがってくる。水面から頭を出した部分から色をつけ、実体となった。
 それは赤地にネズミ柄の服をまとった、黒髪の少女だった。







 


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