繁殖の巫女(R18)

□繫殖札と能力固めの儀
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 妊娠して5ヶ月が経った。茜は自室のリビングで腹巻を編んでいるところだ。
 いつか妊娠するだろうと思っていたが、現実になったときはショックだった。取り返しがつかなくなったと絶望し、一方でこれでもう交接の儀をしなくて済むとホッとした。

 しかし考えが甘かった。妊娠を機に繁殖札の作成という羞恥プレイが始まった。週に4日、快感を高められ、お札、いや、ポルノ写真を撮られている。挿入そのものはないものの、男どもに触られまくり、しつこくガン見されるというやつだ。毎回スケベ心丸出しで主導するムスカリには殺意すら覚える。
 茜はいつかあいつをこっぴどく殴ってやろうと怒りを募らせていた。

 完成した繁殖札は子孫繁栄の神殿で販売された。買った信者たちはそれを見て興奮し、いたすのだとか。まさしく男性週刊誌の袋とじ。しかもモザイクさえかかっていない。不特定多数の男たちに犯されてる気分だ。
 ミクリは開封すれば消えるというが、見られるのに変わりない。異世界の宗教はろくでもないものばかりだった。

 そんなストレスを受けながらも妊娠は順調だった。妊娠5か月目とは言っても、見た目的にはそれほど変化はなかった。乳輪が濃くなり、過敏になったことくらいか。
 快楽に弱くなり、特に乳首は強く触られると痛くて何度文句を言ったかしれない。それにやたら眠い。しばらく空腹時の胃のむかつきがあったが、最近は治ってきた。心なしか腹部がふくらんできたようで膀胱に圧迫感があった。

 病払いの神官は赤ん坊は元気に育っている、と太鼓判を押してくれた。居並ぶ神官たちの中で一番信用できるのはカルカヤだ。彼には儀式を止めさせる力はないが、融通をきかせることはできる。いつだって彼女の様子を見て、――赤ん坊に与える影響を見ているのかもしれないが――欲望に目のくらんだ男たちを止めてくれた。
 望んだ妊娠ではなかったが、いざ命の存在を意識すると愛情が湧くものだ。母子どちらへの気づかいだろうとありがたかった。

 日本にいたころは身近にたくさんの子どもがいた。親戚の集まりになると、上へ下への大騒ぎ。忙しい大人たちに代わって、大きい子どもたちが小さい子たちの世話をする。そういう茜もそうやって世話をされ、してきた。
 あの騒々しい生き物が腹の中にいる。ひとりぼっちの異世界で、唯一自分の血を分けた我が子だ。たとえ父親があの女たらしであろうと、これが愛さずにいられようか。すでに母性本能は芽生えていた。
 となると気になるのは産まれてからのことだ。赤ちゃんを奪われないか、茜はものすごく心配していた。ムスカリに訊くのはしゃくだから、今度カルカヤに訊いてみようか。

 茜は成作途中の腹巻を腰にあてて長さを確認した。姉が妊娠中こういうのを使っていたので、ロベリアに同じものをお願いしたが、この世界にはなかった。ないなら作るしかないと、太めの糸と編み物に適当な棒を用意してもらったというわけだ。長めに編んでお腹の大きさに合わせて調節できるようにしたいと思う。
 昼間ほとんどの時間を共にするロベリアが、見様見真似で同じく腹巻を編んでいた。

 「巫女さま」ロベリアが編み物の手を止めて、彼女を呼んだ。

 「ん?」

 「私にも奇跡が起きました。私にも子が宿ったのですよ!」愛し気に腹を抱き目をうるませた。幸せではち切れそうな顔をしている。

 「え!まじ?おめでとう!」

 「はい。巫女さまのおかげです。」神を見るような眼を向けてくる。

 「いや。違うでしょ」関係ないことでお礼を言われ、居心地が悪いったらない。それとも繁殖札を見て妊娠したとか?だとしたらなおさらいたたまれない。
 「ロベリアさんとお相手の努力の賜物でしょ。てか、ロベリアさん付き合ってる人いたんだー。いつも私といるから、デートする暇とかないんじゃないの?」
 自分の話より麗しの女神の恋話の方がだんぜんおもしろい。

 「でえと、というのが何かわかりませんが、儀式のない日の夜は家に帰れますので夫の相手もできますし、神殿ではムスカリさまから何度もお誘いを受けております」

 は?穏やかな昼下がり、神殿を揺るがすスキャンダルにフリーズした。
 どうやら彼女はデートをセックスと勘違いしているらしく、赤裸々な性生活を告白してくれたようだ。彼女が結婚していたことも驚きだが、何よりムスカリからセクハラを受けているのが問題だ。

 「え?えっ?ムスカリ?」

 「はい。夫とは5年間、性交してきましたが、子どもはできませんでした。それが巫女さまが現れてから、儀式のたびにムスカリさまが激しく興奮され、何度も私を召されました。巫女さまに触発された性交は子を生しやすいのです。ですからこの懐妊は巫女さまのおかげ。心から感謝しております」

 な、なんと!あのエロハゲ、人妻にまで手を出していやがった。あまりの節操のなさに、もげろ、と思う。
 ロベリアに対しても、なんで拒否しないかな、と反感を持った。それとも立場上、神官長には逆らえないのだろうか?このままだとロベリア夫婦は修羅場だろう。

 「浮かれてる場合じゃないじゃん。だんなはどうすんの?下手すると離婚だよ?」


 ロベリアの晴れがましい笑みは陰らなかった。
 「夫とは離婚することになるでしょう。その代わりムスカリさまと夫婦になります。この国では何をおいても子どもを生した方が優先されるのですよ」

 呆れた。ロベリアはこれっぽっちも罪悪感を抱いていない。それどころか誇らしくさえある。
 子孫繁栄の神殿ならでは考え方なのか、国民全体がそうなのか、このモラルの低さには嫌悪感しか持てなかった。

 「ロベリア」ノックがして、噂の浮気相手が会いに来た。
 妊娠が公になり隠れて会う必要もなくなったということか。

 「しばし失礼いたしましす」ムスカリに呼ばれて、ロベリアは出ていった。
 どうやら仕事をほっぽりだし、真昼の情事としゃれこむようだ。

 入れ替わりに神官四人衆が入ってきて、微妙な雰囲気になった。ハルニレは頬を染め、ミクリとバンダは落ち着かない様子。カルカヤはしかめっ面だ。

 またいつもの札作りだろうか?だが主導役のムスカリは出て行ったきりだ。もしかしてエロ神官がここにきて急に愛人を優先したもんで、戸惑っているのか?できればこのまま私のことは忘れてもらいたいものだ。

「巫女さま、お加減はいかがですか?腹部の張りなどございませんか?」病払いの神官がいつもにも増して気難しい顔で訊いてきた。

 「いや、べつに」

 「胃のむかつきがあるのではありませんか?気分がすぐれないとか?」いつになくしつこい。

 「ないよ。順調順調」

 「念のため御子さまの魔影を診てみましょう。腹部に触れてもよろしいですか?」

 えーと思ったが、カルカヤの言うことだし、変なことはしないだろう。
 茜はその場に立って、病払い師が腹に触るのを許した。

 そうこうしているうちにムスカリがひとりで戻ってきた。短時間だったので本番まではしていないだろうが、このエロハゲのことだ。あの美女の胸やお尻を触るぐらいはしてきたはずだ。赤い顔がにやついていた。

 「おやおや。まだ準備も整っていないのですか?やっぱり私がいないと何も進みませんなー」

 カルカヤ以外の3人がムッとなった。病払い師は元から辛気臭い顔だ。

 「巫女さま、ご機嫌いかがですか?」とってつけたようにムスカリが訊いてきた。

 「あんた見たら一気に落ちたわ」嫌悪感むき出しで切り捨ててやった。

 「それはすみません。カルカヤ殿、巫女さまの調子は?」一向に堪えた様子もなく、病払い師に話を振った。

 「異常は見当たりません」ボソボソとカルカヤが答える。

 「ではミクリ殿、重力の魔法を」

 「また札作りか!ちょっとは妊婦を労われ!」茜は頭にきて、ムスカリにつめ寄った。
 こいつらのやることは崇め奉るのは見せかけだけで、実際は辱めだ。

 何歩もいかないうちにバンダに腕を掴まれ、ミクリに魔法をかけられた。ヘナヘナと手足から力が抜け、バンダに抱きあげられる。

 「巫女さまの妊娠も5か月目。安定期に入りました。ここからは御子のための儀式、能力固めの儀を行います」








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