繁殖の巫女(R18)

□9年後
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 茜は扉をぎりぎりまで閉め、隙間から外の様子を窺った。

 奴らはまだ彼女を探しているようで、向こうの四つ角をターバン野郎が横切るのが見えた。

 そのときいきなり後ろから二の腕を掴まれた。
 肝をつぶして振り返れば、金髪イケメンがジッと彼女を見下ろしている。一般服よりも丈の長い、より和服に近い服をきていた。肌の色は薄桃色で、ターバンたちの仲間ではないようだ。背後の建物のドアが開いており、彼はここの住人らしかった。

 「すみません。勝手に入って」

 「運び残しがいましたよ」金髪のお兄さんは中の誰かに声をかけた。

 「?」意味がわからない。

 家から赤毛と水色のひげ面が出てきた。金髪と違って庶民の服を着て、なんだか薄汚れている。さらに襟元がだらしなくゆるんでいるので、すさんで見えた。
 男たちは一瞬、目をむいたが、顔を合わせてうなずいた。
 「ウロウロしやがって」「手間かけさせんじゃねえぞ」それぞれが口にし、近づいてくる。

 嫌な予感がする。
 「あの、そうじゃなくて。えっと……」

 金髪から彼女を受け取り、両側から拘束した。

 無断で敷地内に入ったから、不審者と思われているのだろうか。
 「いや、待ってって。説明するからっ!」

 男たちは問答無用で彼女を屋内へと引きずっていく。

 「怪しい者じゃないんだって。私は――」そこで身分を明かすわけにはいかないのだと気づいた。
 人々の繁殖の巫女に対する執着は身をもって知っている。異世界に来たばかりの頃、大勢に迫られた恐怖は未だ忘れない。
 「だからその、変な奴らに誘拐されかけて」

 男たちは聞く耳をもたず、彼女を連れて地下へと降りた。1番手前の鍵のかかったドアを開けると、大型犬が入りそうな檻が4つ並んでいた。そのうちのひとつに、すでに子どもがふたり閉じ込められている。

 見たとたん、自分のことは二の次になった。
 「あんたたち!子ども相手に何しちゃってるわけ?トラウマになったらどうすんだ!!」茜は怒鳴りつけた。

 しかし男たちは取り合わず、隣の檻に無理矢理、彼女を押し込めた。ガチャンと鍵のかかる音が無情に響く。
 「ちょっと!話も聞かずに閉じ込めるってひどくない?」すぐさま鉄格子に取りすがって揺すった。

 「反抗的ですね」そう言ったのは金髪野郎だ。値踏みするように茜を見ている。

 「なに、調教すれば、元気な分よく働くってもんです」赤ひげが応えた。

 なんとなく状況が見えてきた。どうやらこれは人さらいと人買いの会話のようだ。そして隠れどころを間違えた彼女は、自ら売られに来たようなものだった。

 「うるさいから交渉の続きは上でしましょうか」話しながら3人がドアに向かった。

 「こんなことしてただで済むと思ってんの?待ちなさいよ!出せー!」茜はわめいたが、誰ひとり答えず、地下の扉は閉まった。

 奴らが出ていくのを待っていたかのように、すすり泣きが始まった。隣の檻の5、6歳だろうか、紫髪の女の子だ。もうひとりの7、8歳と思われる緑髪の女の子も今にも泣き出しそうだった。

 「大丈夫だよ。今頃、私と一緒にいた人たちが血まなこで捜しているはずだから、きっと助けに来てくれるよ」彼女たちを慰めたくて、茜は話しかけた。「あなたたちは姉妹?」

 緑髪の子が首を振った。

 「どこから連れてこられたの?」

 「お父さんたちといちばでおかいものしてたの。おようふくを見てたら、きゅうになにも見えなくなって、つれてこられたの。この子もふくろに入れられてやってきたの」大きい子が代表して話してくれた。
 そのときの恐怖を思い出したか、小さい子がますます泣き始めた。緑髪の子がつられて泣きそうになるのを必死で堪えているのが、なんとも健気だった。

 「お名前はなんていうの?」少しでも恐怖から気をそらしたくて、訊いた。

 「あたしはアベリア。おなまえおしえて、だって」最初に緑髪の少女が答えた。

 「あたちはクララ」泣いていた紫髪の少女がうるんだ水色瞳をあげた。

 その心細そうな表情に、胸が痛くなる。
 「クララ、アベリア。きっと助けがくるから、手をつないで待ってよ」茜は鉄格子の間から手を伸ばした。

 向こうの檻からも細い腕が伸びてきて、手をつないだ。

 どうやらこの街の市場は人さらいたちの格好の狩場になっているようだ。結局は彼女を捕まえようとしていた奴らも同業者だったのだろう。それぞれが獲物を捕まえてきて、ここへ売りにくるシステムだ。帰ったら報告しないといけない。
 茜は無事助け出されると信じていた。

 しかし何の動きもなく数時間が過ぎた。天井近くに空いた明り取りの小さな窓も陰ってきている。あれこれと話しかけて気をそらしていたふたりの少女は、疲れ果てて眠っていた。少しでも恐怖を忘れていられる時間を引き延ばしたくて、声はかけなかった。

 ところが悪党はどこまでいっても悪党で、そのひとときの安らぎさえ奴らは奪っていった。入ってきたのはあのすかした金髪野郎だ。
 性悪金髪はさっきの奴らよりは小奇麗な男ふたりと女ひとりを引き連れていた。
 青髪の女が、少女たちの檻の鍵を開けた。

 少女ふたりは奴らを恐れて、檻の奥に引っ込む。

 「こっちこい!」連れてきた男のひとりが力づくでアベリアを引きずり出した。

 「いやー!!」

 「やめなさい!」茜は思わず叫んだ。

 「おねえちゃん!」残ったクララは茜の手を求めて、檻の間から手を伸ばした。

 「あんたら絶対、捕まるからね!」茜はクララの手を握ってやりながら、脅しを入れた。

 しかしクララも青髪の女に引っ張り出され、手が離れた。

 「お姉ちゃーん!」
 ふたりは犯罪者の小脇に抱えられ、部屋から連れ出さていった。

 「アベリア!クララ!」茜は鉄格子にへばりついて叫んだ。

 「お前はこっちだ!」
 いつまでも自分の無力さを嘆いている間はなかった。残った薄ピンク髪の大柄な男に檻から引きずり出された。

 「子どもは何より大事なんじゃないの?」偉そうな金髪男に向かってわめいた。

 「そうですよ。だからいい金儲けになる」人間のくずがのたまった。見た目はいいが、性根は腐っている。

 「あんた、最低っ!」

 「どう頑張っても得られないなら、諦めるか、他から調達するしかないでしょう?金で何とかなるなら飛びつきたくもなる。私たちは儲かるし、買った方も望みが叶って大喜びだ。子どもたちもきっと大事にしてもらえますよ」

 「引き離された親子の悲しみはどうなるの?今頃、あの子たちの両親は死にもの狂いで捜してるよ?」

 「1度できたのですから、そのうちまたできますよ」

 「子どもは物じゃないんだよ!!」あまりに頭にきて、ろくでなし野郎に蹴りを入れた――はずだったが、茜の動きに気づいたピンク頭に引き離されて、ずっこけた。

 「人のことより自分の心配をした方がいいんじゃないですか?」悪党らしく嫌な笑みを浮かべ、ドアに向けて顎をしゃくった。

 命令を受けて、茜を掴んだ大男が動く。
 いくら踏ん張ろうが、暴れようがかないやしない。軽々と廊下に引っ張り出された。
 どこかの部屋から子どもの泣き声が聞こえる。きっとクララだろう。大事な商品だから殴られてはいないだろうが、怖くてたまらないはずだ。

 茜は茜で同じ地下の別の部屋に連れていかれた。そこは拷問部屋のように天井の梁から鎖が下がっていた。これにはさすがの茜もビビった。あまりに反抗的だから、さっそく調教でも始めるのだろうか。

 「放せ!放せつってんだろ!」
 ピンク髪の男の力は強く、茜は立って万歳した状態で両手を鎖につながれた。
 金髪が値踏みするように近づいてくると、残された武器である足を繰り出した。「こっちくんな!蹴り飛ばされたいか!」

 金髪がその場にとどまり、舌打ちした。どうやら脅しが効いたようだ。
 「そのうるさい口と、行儀の悪い足をなんとかしなさい」金髪がピンク頭に命令した。

 すると、大男がおもむろに茜の片足を持ちあげた。

 「ちくしょう!放せ!」
 よろける身体で必死にバランスを保った。でないと両手首に体重がかかって痛い。

 ピンク頭は左足をロープでつるすと、今度は彼女の両頬を親指と人差し指で圧迫した。

 顎にグイグイ痛みが食い込んでくる。たまらず口を開けると、口に何かを突っ込まれ、頭のうしろで縛って固定された。

 「ポロッポ!(ちょっと!)」間抜けな笛の音が鳴った。どうやらしゃべれないように笛で口をふさがれたらしい。

 「さて」金髪がナイフをちらつかせて近づいてきた。

 「ポ、ポロロ!(く、来るな!)」
 片足立ちで両手は拘束され、口はふさがれている。万事休すだ。

 麗しの悪魔はなぶるようにナイフの背で彼女の頬をなぞった。

 茜は顔をそらしてナイフを避ける。

 だが奴の狙いは顔を傷つけることではなかった。なんとこの人でなしはウエストを縛る帯を切りやがった。
 茜が着ていた服は膝丈の着物に似たような物だったので、前面がハラリと開いた。

 「ポッ(やっ)」恥ずかしさに彼女の全身が赤く染まった。
 続いて乳あてと下ばきがナイフの餌食となる。

 「おやおや。子どもかと思ったら、すっかり成熟しているではありませんか」上から下まで眺め、胸元に戻ってしげしげと乳房を見つめた。「これは……」乳首をキュッとつまんだ。

 「ポロロッポポー(触るんじゃねぇー)」

 「乳頭が育っていますね。まさか……。服を全部脱がせなさい」ナイフをピンク頭に渡した。

 「ポロッ、ポロッポ!(やだっ、やめて!)」身を揺すって抵抗した。

 しかし大男は紙のように服を引き裂き、彼女をあっけなく裸にむいた。

 金髪が下腹に手を当て、意識を集中した。どうやら魔影を探っているようだ。興奮の色はまったく見えず、淡々と品定めをしている。完全に彼女を商品としか見ていなかった。
 「腹に子がいるわけではないようですね。それなら性交経験が豊富か、子に乳を含ませたか……」今度は腹に顔を寄せて、肌をなぞった。「この筋は腹ぼてになった証……」たぶん妊娠線のことを言っているのだろう。
 「これは雌陰の具合も確認した方がよさそうですね。性具を持ってきなさい」

 大男が言われた通りに紫色の花飾りを持ってきた。

 あれはいつかハルニレが使った大人のおもちゃだ。あれはヤバい。
 「ポロ、ポロッ、ポロロー!(それ、やだっ、やめてよ!)」

 しかし金髪の手がためらいもなく股間をおおい、クリトリスを刺激し始めた。

 「ポロロ――(やめろ――)」全身を揺すって抵抗するが、手は離れない。

 クリトリスが芯を持ち始めると、ピンク頭に腰を固定させた。
 耳元に荒い息がかかる。

 ただの商品としか見ていない男は、初々しい色をしていますね、と言いながら小さな花を取りつけた。

 性具に魔力が込められると、心地よい苦痛が茜を苛み始めた。波のように押し寄せる刺激に、もぞもぞしたくなるのを必死に我慢する。

 ふたりの男は彼女が快楽に耐えるのをジッと見ていた。いつの間にか大男の顔は真っ赤になっている。

 「孕むほどやっているだけあって、濡れるのも早いですね。幼顔で淫らとは、きっと客受けしますよ」
 金髪が膣を傷つけないようにゆっくりと指を入れてきた。「ほう、思ったより締まっていますね」機械的に指を往復させ、中を調べている。
 「おや。瞳が黒いですね」間近で顔を覗き込まれ、目の色に気づかれた。「これは縁起がいい」指を抜いて、今1度、全身を見回した。「紺色の髪は見ますが、この薄い肌の色はめずらしい。外国人との合の子かもしれませんね。これは高く売れますよ。化粧箱を用意しなさい」

 ピンク頭が持ち手のついた80センチ四方の箱を持ってきた。中に黒い布が敷き詰められている。
 その間に性具の魔力が切れ、茜はぐったりと鎖にぶら下がった。

 男ふたりが両手の鎖を外し始めた。今度は例の箱に押し込めるつもりなのだろう。鎖につながれているよりは逃げやすそうなので、大人しくしていた。
 鎖が外れたら、こいつらを蹴散らしてドアを出て左だ。真っ直ぐ走れば階段がある。素っ裸で飛び出すことになるが、そこから先は逃げてから考えよう。

 カチャリ。右手に続いて左手も自由になった。今だ!
 茜は男たちを振り払って走り出そうとした。しかし。
 「ポッ(やっ)」
 鋼以上に強い腕に腰を拘束され、引き倒された。

 ピンク頭が背後から上半身を拘束している間に、金髪が彼女の脚の上に乗り左脚に絡まっていたロープを足首にずらして締めあげた。次に左手首にもロープをかけられ、両方をつなぎ合わせた。右側でも同じことが来る返され、茜は蟹よろしく化粧箱に収められたのだった。






 
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