イブの夜は更けて(R18)
□写真
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「僕の見た感じ、あれは見込みないですよ」きれいな顔をしかめ、村井真こと原村真澄は言った。
「まだ諦めるのは早いんじゃないか?名刺を渡したんだろ?」椅子にだらしなくもたれ、ファイルを見ながら〈よろず屋〉の経営者、五十嵐一馬が慰める。
〈よろず屋〉のオフィスは8畳ほどで、そこにふたつの事務机と擦り切れたビニールソファが詰め込まれている。壁際のロッカーには天井までダンボール箱が積んであり、地震のときには絶対いたくない場所だった。
真澄は彼の向かい席に座り、無言で首を振った。彼女の様子を身近で見ていたのだから、間違いない。
「おいおい。おまえらしくもない。そのうち連絡あるって」
「そうだとしても、いつまでも待ってるわけにもいかないでしょう?」
一馬が考え込んだ。真澄を眺め、パラパラとファイルをめくり、再び彼を見た。
「よし、1度俺が会ってみよう。どこに行ったら1番自然に会える?」
真澄は氏島捺希の1日を思い返した。
「辻丸不動産には朝10時から18時まで。仕事帰りに買い物に行くくらいで、飲みに行くとか、食事に行くとかはありません。1番確立が高いのはランチのときで、斜め向かいの定食屋か、パン屋の2階のどちらかにいます」
一馬が呆れた顔をした。
「なんてくそ真面目で、面白味のない女だ」
その表現がおかしくて、思わず真澄は破顔した。
彼の笑顔を眺めながら一馬が言った。
「俺からも話してみるが、だめだったら強硬突破する。おまえも準備しといてくれよ」