イブの夜は更けて(R18)

□再会
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 今頃になって携帯電話の男に名前がついた。
 五十嵐一馬。それが彼の名だ。

 あのときも大柄だと思ったが、今回もその大きさに圧倒された。肩幅が広くて、Tシャツから剥き出しになった上腕二頭筋が信じられないくらい太い。近づいてきたときは、尻ごみしたほどだ。
 だが話してみると、記憶にあった男ほど怖くはなかった。

 あの頃、彼の正体がわかっていたら、私の無実を証明してもらえたのに……。
 そうなっていたら、勇司はどうしただろう?最終的には離婚しただろうが、さぞ勇司はあたふたするはめになっただろう。

 想像したら、笑えた。勇司のことを考えて笑ったのは離婚以来初めてだった。離婚のショックから立ち直りつつある証拠だ。

 勇司を困らせることはできなかったが、五十嵐一馬との再会は捺希にとって有意義なものだった。

 驚いたことに五十嵐は携帯電話を届けてもらったことに未だ恩を感じているらしく、破格の値段で仕事を引き受けてくれた。もちろん必要な材料費は捺希が出すが、人件費はどこよりも安かった。
 条件はある。〈よろず屋〉から派遣できるのは彼ひとり。五十嵐の身体が空いているときに限られる。捺希が休みのときは、一緒に作業を進めることになっていた。

 捺希に異存はなかった。もともと自分でするつもりでいたし、五十嵐が言い出さなかったらこちらから提案していたところだ。

 捺希の休日と彼の日程表を比べ、だいたいの予定表を作った。とりあえず明日の早朝、出勤する前に実際の様子を見てもらうことになっている。
 遅くとも9月までには作業を終わらせ、入居者の募集を始めたかった。

 彼がいてくれたら、何もかもうまくいくような気がした。






 
 


 
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