short story

□あまくてあかい。
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一ヶ月前、なんとなく食べようとして取り出した飴玉。


「あー飴玉おいしそうー!俺も食べたい!」

ねー!ちょうだい?
そう屈託なく笑う顔に思わず見惚れてしまった……









「ねぇーかおるん!飴ちゃんちょうだい?」

今日もいつもと変わらない底抜けに明るく気が抜けるような笑顔が僕の顔を覗き込む。

明るい髪色は軽めにカットされて、ぱっと見チャラ男。でもその髪型も顔もすべてが整っていて眩しい。 

正直、こういうやつは苦手なはずなのに……何故か邪険に出来ない。

「天宮…なんで毎回俺に貰おうとするんだ。他にも飴なんか持ってる奴たくさんいるだろ?」

「えー!なんで?だめ?」

傍目にはイケメンに属するもう高校生の男子がたかが飴玉にこんなに執着するのか不思議で仕方ない。

「毎日毎日、よく飽きずに貰いに来るよな……」

そう言いながら俺はソーダ味の飴玉し自分の口の中に放り込んだ。
その動作を見て天宮は泣きそうな顔をして「自分だけずるい…」と口を尖らせた。

その仕草はまるで子供のようでつい声を出して笑いそうになる。

ーどうしよう……可愛い。

毎日毎日、こうやって飴玉を欲しがる天宮と接するうちになんとも言えない感情が芽生えていくのに気がついた。


強いていうなら人懐っこい仔犬がめげずにじゃれてくる様で……


「秋月ぃー」

ほら、そうやって僕の気も知らないで甘えた声を上げる。

「わかったよ……ほら、イチゴ味でいいか?」

手のひらに乗せてやった飴玉に、また満面の笑みを浮かべて目を輝かせる。

「やっひゃあー、ありがとうー!おいひいー!」

早速舐めながら舌っ足らずなお礼を聞いて思わずため息が出る。
所詮僕は飴玉がなければ天宮のこんな笑顔も、嬉しそうな声も本来なら聞けるはずはないんだ。


僕があげなくても……代わりにくれる奴なんてコイツなら幾らでもいるはずだ。

……なんか自分で考えて勝手に虚しくなってくる。



「明日からは他の奴にもらえよ?どうせ誰にもらったって味なんて変わらないだろ?」

そういった俺を、雨宮はすごくびっくりした顔で見つめる。   

その顔がふにゃ、とした泣きそうな顔に変わって……

「違う、違う!秋月がくれるから……甘くて、美味しくてーー」



ーー好きなんだよ。





小さく呟かれた言葉に、僕の頬は天宮の舐めているイチゴ飴のように染まった。






「なんだよそれ……甘すぎ」 

「甘くたっていいのー!だって……」




俺、秋月のことがずっと好きだったんだーー気づいてた?



へにゃ、とした笑顔が俺に負けないぐらいに赤く染まっていた。







ああもう、甘すぎて胸焼けしそうだ……






【END】
次ページはあとがき。
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