ぱちぱちありがとうございます。
励みになります。
ささやかなお礼に↓続き物突発話ですが……
【甘いものには目がないので】
目の前にはフカフカに湯気を立ててメイプルシロップの香りを漂わせる美味しい事は口にしなくてもわかるホットケーキ。
その横には豆乳ラテ……
「美味しそう……!」
「うん、そうでしょう。君のために作ったんだから遠慮なく召し上がれ?」
そう言って目の前で微笑む青年に、ふと我に返る。
「誤魔化されませんから」
「あら?そう?」
「ここはどこですか?俺帰ります!」
事の起こりは数時間前。
俺はお察しの通りそこらにいくらでもいる平凡な高校生。
欲しい本があって本屋に寄って帰宅する途中、これまたお約束のように柄の悪い連中にうっかりとぶつかってしまい絶体絶命のピンチに陥っていた。
「高校生なら金ぐらい持ってるだろ?!」
「さっさと出しゃー痛い目にはあわせないであげるよー」
生憎、財布の中にはさっき買った本代程度しか入れていなかった。
「あ、ありません!」
「……は?何言ってんの、金がないから痛い目にあうよーそんなに痛いの好きなんだー?」
「さっき買った本が高かったので……」
そう言うやいなや持っていた本を奪われ袋からでた表紙を見た瞬間に、本はヤンキーによって地面に叩きつけられさらに踏まれた。
「あ、ああー!俺の本!」
「てめぇ!ふざけんなよ!お菓子の本とか頭おかしいんじゃねーの?!」
男の癖に気持ちわりぃ!
その罵声に今まで沈んでいた怒りが一気に駆け上がってきた。
「……せよ」
「はぁ?聞こえねー」
「弁償して返せよ!!」
この本は俺の大好きなパティシエの初めての本で……今日、ようやくこの手にできる日を予約開始日から待ち望んで……
「この状況でよくそんな口が叩けるなぁ!クソガキが!」
悔しくて涙が出そうになる目の前に、ヤンキーが拳をふりかぶるのが見えた。
もう、どうとでもなれ!
目をつぶり避けられない衝撃に覚悟を決めていた……のに。
「あ、れ?」
そっと瞼をあげてみると、俺の目の前には大きな手のひらがありヤンキーの拳を受け止めていた。
「てめぇ……よけいなことしてんじゃねーぞ!」
「だってこんな一方的な暴力、見過ごせないでしょ?普通はさー」
目の前の手のひらがヤンキーの拳を握り込んでいる。
ミシミシと痛々しい音がなり、ヤンキーの表情が苦痛に歪んだ。
「このまま引くならこれ以上何もしないであげるよ?」
笑顔でいっそに握り込んだ拳に力を込めるとゴキィ、と鈍い音がした。
こ、怖い……
「わかった!わかった!」
「分かればよろしい……さっさと去れよ、屑が」
さっきまでのにこやかな顔が一瞬で変わる。
その冷たい表情にヤンキーは捨て台詞もなく慌てて姿を消した。
「はーっ…やれやれっと、君大丈夫?」
「は…い、あ、ありがとうございます!」
足元で無残にボロボロになった本を拾い上げて僕の方に渡してきた。
「ボロボロになっちゃったね」
間に合わなくてごめんね?と頭をぽん、と叩かれた。
目の前に戻ってきた本の惨状にさっきまでの恐怖とこの本を守れなかった悔しさに自分でも驚くほど視界が滲んでいく。
「よしよしーその本は君にとってとても大事なものだったんだね……」
また頭をポンポンと軽く叩かれて、俺の涙腺は完全に崩壊した。
「くっ…うぅ……」
「わっ、ちょ、ま!今ここで 泣かれたらまるで俺が泣かせたみたいじゃないーーーちょっとこっち来て!
そうやって女々しく涙を流している間に、いつの間にかカフェのような場所に連れてこられて今に至る……
「あんな事があったばっかりだから全てが疑わしく見えるんだろうけど、完全に単なる慈善だよ?」
だから遠慮なく食べてよ、せっかく作ったのに冷めちゃったらこのホットケーキ可哀想でしょ?と言われ、恐る恐る口に運ぶ。
「……おいしい」
本当に美味しい!
ホットケーキがこんなに美味しいなんて……
「ふふっ美味しいなら良かったよ」
なんたって俺が作ったんだからね☆とウインクを投げてくる男に、張り詰めてた緊張は一気に溶けて思わず吹き出してしまった。
「ふふ、あははっ!」
「そうそうー美味しいものはやっぱり笑顔で食べなきゃね」
ひとしきり笑って落ち着けば、さっきのお礼を改めて口にすると「ただのおせっかいだから気にしなくていいの!ああいうやつが嫌いなだけだから」と笑ってまた頭をなでられた。
「でも……なにかお礼をしたいんですが」
お金とかはあまりないけど、あのまま助けてもらえなかったら俺は今頃何ヶ月病院のベッドの上だったのかわからないから……
「えー?そう言われてもなぁお礼が欲しくて助けたわけじゃないし」
俺の言葉に「うーん」としばらく悩んだあと小さく「あっ」と呟いて満面の笑みをこっちに向けーーー
「このカフェでバイトしてくんない?
と名案と言わんばかりに楽しそうに言った。
【1話目END】