本屋さん*

□世界はワタシのモノ
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広い広い部屋の中。


銀の長い髪をいじくり倒しながら、小さな体を目一杯に広げて世界地図を眺めている少女が言った。


「…世界、広いなー。」


ボケーっとした生気の無い瞳は濃い空色。
小さな体に似合いのあどけない容姿。
しかしその容姿と体躯には不釣り合いな部分が一つだけ。
…そこだけに栄養を持って行かれた様な可哀想な状況は、世に言われる「巨乳」と言うモノで、身長に行くと思われていた栄養はほとんどが胸に集まっていた。
それを隠す為に羽織っていたローブも、彼女の「面倒くさい」との一言によりテーブルの端っこに放りだされている。
ああ…ローブ、哀れ。


もう一度彼女…いや、少女に戻すと。
次は大きな椅子にもたれかかって窓の外を見ていた。


「…世界の半分以上はわたしが持ってるのに。
人間達はどんどん、どんどん開拓してまたいろんな所に住み始める…。
増え過ぎ注意!って看板でも作れば、繁殖しなくなるかな?
いや…人間の生命力って舐めちゃいけないか。
なにせMr.Gを生みだしたのも人間だものね。
あー…怖い怖い。」


「あの黒光りした物を見ると、どんなに怖いものもかすれて来るってもんだしね…。」


少女は身を震わせると、それに合わせて揺れる胸を見てため息をついた。


「もー…これも大きくなりすぎて、邪魔。」


自分で形を変えながら、服の下の方へと押しこんだ。




…彼女、名をリリーベル。
『魔導の王』を若き日より賜りし彼女は
魔を仕切る王であり王女である。


魔の世界が誕生せしは今より3000年前。
‟人間”と言うモノが出来て100年の歳月が過ぎようとした時。
人間の一部によって切り離された‟負”の感情が集合したモノが人間に模した形で人間達の前に現れた。
それをいつしか眷族と呼び随えせたのは、約2500年前の魔王が最初で、今では16代魔王であるリリーベルも例外では無かった。


歴史書を読み解き、昔どこからどこまでが魔族や魔物その眷族、そして自分達の土地だったのか。
山の向こう、川の向こう、海の向こうへと広がる土地をわざわざ探査し、自分自らその地の人間達を追い払い、幹部である魔族達にそこへ住まわせ、魔族として平和な土地にして来た。


もちろん魔族の中にも人間を嫌悪する者はいる。
それは当たり前だ。負の感情を捨てたのは人間なのだから。
捨てた者達が生きているのが気に食わないのか、時にはその取り戻した土地を、世に言う勇者とやらが取りに来る時がある。
そんな時に交渉するのもリリーベルの仕事だ。
まあ、時にはぶった切ったりするのだが。


…しかし、リリーベルの敵ではない。
魔道を使える彼女にとって、人間は虫とほぼ同列。
片手をひょいと動かせば、ひらりと落ちてしまう。
勇者と言えど、体は人間。
少し人より高いスペックを持っているだけの人間だ。
元より高いスペックを持った魔物の器にどうあがいても勝てるわけがない。


リリーベルは、それを非常に残念だと嘆いていた。


私には同列に語り合う仲間が居ない。
人間の姿を取るのは、調査の為だ。
だが今となっては、本来の姿に戻るのは面倒になってしまっているほど生き心地が良い。


彼女はたまに、ふらりと近隣の村に立ち寄っては。
その村の子供達や大人達と戯れに遊ぶ。
それは調査とは名ばかりの、さみしさを埋める為の行動であり、それを本人であるリリーベルも分かっている。


事実彼女に近しい人物と言えば、幼少期から側に居て彼女の世話係をしているステイルと言う魔物だが。
彼は呼べば身に従う従者であるし
彼を人間で言う【友達】と言う枠に入れるのもどうかと思う。


魔族に階級が無いわけでもないが、リリーベルは魔の頂点である【魔王】だ。
言わば全魔物は彼女の言いなりなわけなので。
【友達】や【仲間】と言う物が、彼女の物になる事は無い。


「……人間はいいなぁー。
弱いけど。
守ろうと思える心があるし。
力が無いから団結も生まれる。」


「私は…壊すだけだしなー。」


窓の外に広がる海の向こう。
その先に居る人間達の中で、自分と同じ…いや、それ以上の力を持つ物は居ないだろうか。
私と対等に分かり合える、素晴らしく馬鹿馬鹿しい事の出来る者は居ないだろうか。


リリーベルは今日も、空色の瞳で遠くを見つめていた。
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