本屋さん*

□ミジンコの逆襲
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「…相も変わらず、ちっちゃいね。」


「ちっちゃい言うな、おっきいめ。」


教室の隅。窓際と言う特等席で。
わたしは隣に座っている九条を下から睨み付けた。


「ちっちゃいんだから、大人しく可愛くしてればそれなりなのに。」


「おっきいんだから、不敵にスポーツとかしてればそれなりなのに。」


言って来た言葉に同じようなニュアンスで返す。


わたしの隣の席でぼうっとこっちを見ている長身の男。
彼は九条奏(くじょうかなで)と言って、女子曰く顔・ルックス共に中の上。
言われてみればミステリアスな雰囲気を足して、良い言い方をすると影のあるイケメンと言うところか…。


しかし表情は見た目通りの無表情。
それこそ笑うところなんて見た事無いし、病弱なのか体育もほとんど見学。
マトモに体育の授業を受けているのを見た事もない。


対するわたし、窓際の小学生と言われている(不本意だが)。
結城梓紗(ゆうきあずさ)。
身長146cm、体重は言わないけど…。
150も行かない身長のせいでクラスでは『小学生』ともてはやされており、私は不満であるが周りが楽しいみたいなので心で泣いている。
しかも初めての席がえで、特等席の窓側をゲットしたかと思いきや、人生初の長身男子が隣で…。
わたしの心はズタボロになった。


「…今日の体育、どうして見学してたの。」


うっ、見られてたのか…。
わたしは心の中で小さく舌打ち。


「…女の子の日。痛すぎて、体育どころじゃないの。」


だから休んだ、と付け足すと。
九条は「ふぅん」と興味なさげに相槌を打った。


…興味無いなら聞くなよ。


わたしが窓の外に視線を向けると、九条が席を立ったのか、ガタンと言う音がした。
ふと振り返ると、今は座っていないわたしの前の席の椅子に腰を下ろした。


「……な、なに。どうかした?」


「痛いんでしょ。はい。これあげる。」


そう言って大きな手がぬっと現われると、私の右手になにやら見た事のある会社の名前の頭文字が入った錠剤が。


「…痛み止め。オレもいっぱい持ってるから。」


あげる。


そう言ってわたしの手をグーの形に戻す。


…今まで軽口叩けるだけの相手かと思ってたけど、なんだ。案外優しい所あるんじゃん。
いけすかない奴だって決めつけてごめん。


心の中で謝って、わたしは「ありがとう」とすんなり口から出た事に自分で驚いた。


「女の子の日。しんどいって聞いた。
またなにか出来る事あったら言って。」


「ありがとう、大丈夫。わたしはお腹が痛くなるだけだから。
心配してくれてありがとうね。九条。」


初めて笑顔でお礼を言った。
九条は若干頬を緩めて「どういたしまして」と言った。
 

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