本屋さん*

□世界はワタシのモノ
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「魔王様」


「ステイル?どうしたの?」


珍しく現れた侍従ステイルが、いつもの通りにこやかな笑みをたたえ魔王の手を取った。


「ご機嫌麗しゅう。
今日も素敵な貴方を見て、私は今日も生きて行くと言う幸せが」


「人間的前口上は良いから。
事実を言いなさい事実を。」


「あ、はい。了解しました。」


たまに仕入れてくる人間の言葉を使って、ステイルは楽しませてくれる。
これが人間の話す言葉なのかと感心するが、急ぎの伝達だとしたら対策を練らなければならない。
アホなステイルの手をぺしりと叩くと、にこっと笑って「実は」と事実を口にした。


「規格外の勇者が出来上がりました」


「…規格外?勇者が?」


ステイルの言葉をそのまま疑問符を付けて返すと、「はい、魔王様」とやはり笑顔で頷いた。


「実は、何年か前に我が魔族の眷属であるドラゴンの中に。
先読みの出来る者が居まして。」


話し始めたステイルの言葉を分かりやすく言うと、こう言うことだった。


我が眷属であるドラゴンが先読みの能力を持って生まれた。
その者に今後魔族の国を脅かす物を挙げよと言うと。
この先数年後に産まれるであろう魔王と対の存在である勇者が、両国のすべてを変えるであろうと言った。
そして今日、その勇者が産まれたと言う。


「……そうか。
まずはおめでとうと言う所?」


「いやいや魔王様。
それが驚きの連続でありまして」


「…驚きって、どう言うこと?」


ステイルが珍しく仰け反ったので、ああ…なんかあるのかなくらいに構えて居た私が馬鹿だった。


「…神の祝福を受けたそうです」


「かっ、神の祝福!?」


私は座っていた椅子から立ち上がると、右脚に引っかかって鬱陶しかったので壁へと蹴り付けた。


がしょーんと情けない音を立てて、今まで座っていた椅子は粉砕した。


……しかし待て。
それではこの間口走った事が現実になってしまうのではないか?


神とはこの大地、天に力を流す物達の事。
伝承では稀に、この世を代表する物に力を与えると書いていた。
その力とは魔力のキャパシティの増量の事を言う。
普通は産まれて持つ魔力はその後上がらないとされている。
その力を授かった魔王は、16代の中でも3人だけ。
人間では例の無い事だろう。


産まれたての赤子にそのエネルギーが溢れているとするならば、それは命のロウソクが始終全力で炎をほとばしらせていると言う事。


「……いつだ。何処に産まれた。
場所を言いなさい。」


「スノーウエスト、郊外の…マウゼンと言う街、です。
今朝早く取り上げられ、今はその者の両親の所だと…」


「スノーウエスト…この間取り戻したチェイスの森の隣だよね。
ちょっと席を外すから、後はよろしくね。」


「え、ちょっと魔王様?」


ステイルの言葉に微笑んで、私は転移の魔法でスノーウエストまで飛んだ。


せっかく現れた私と対の魔力を持った人間。


待ちに待った、同列の存在。


「…絶対、消さないわ」


その火を消してはならない。


私は笑みを浮かべながら、スノーウエストのマウゼンを目指した。
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