短編こっちだって。
□もう戻れないよ
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もう戻れないよ
「なんでッスか!」
『…ごめん』
黄瀬は***の机をばんっと力任せに叩いた。
彼がどうして怒っているのか理由ははっきりしていた。
私が昨日、別れようとメールをしたから。
「***は俺のこと…」
『君が思ってる通りだから』
周りのくすくすという笑い声がやけに響いて聞こえてくる。
…うるさい。
『だから…ごめん』
「何か理由があるんじゃないんッスか!?」
『もう嫌なの』
掠れて消えてしまいそうな声でそう呟いた。
『…ごめんね』
教室から出て行ってしまった***を俺は追いかけた。
どうしても理由が知りたかった。
「はぁ…はぁっ…どこ行った?」
自信など無かったが彼女が行きそうな場所を虱(しらみ)潰しに探したがどこにもいない。
いつの間にか日が沈みかけていた。
もう帰ってしまったのだろうか。
諦めかけて校庭をふと見たときに見覚えのある人影があった。
「え?」
探し尽くして疲れた体など気にせずにその場所へ走った。
「…こんなとこにいたんすか」
***だった。
枯れてしまった桜の木を見上げる彼女はとても悲しそうだった。
『転校…することになったんだ』
それが理由じゃないんすよね?と聞こうとしたが、俺は気づいてしまった。
彼女の髪が短くなっていたことに。
それだけじゃない。
瞳から涙を流していたことに。
『迷惑かけたくなかったから大抵のことは我慢してた』
『でも…どんどん酷くなって、1人じゃ耐えられなくなった』
どんな言葉をかけても彼女の傷は治らない。
『黄瀬くんのせいじゃない。私の弱さのせいだから…』
「***!」
もう自分の所へは戻って来ない、そんな気がした。
『ありがとう…大好きだった』
それから***とは連絡をとっていない。
どこかで幸せに暮らしているのだろうか?
またどこかで会えたなら…。