小説A

□嗜虐と蹂躙
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あははは、と笑った。苗木が、狛枝が。
「だからボクはね、確信してるんだ!これから世界は素晴らしい絶望に堕ちていくって!」
また笑う。ひたすらに笑う。笑いすぎて声を出すのも辛いほど。息が詰まって苦しくなるほど。
「でもさ、君みたいなゴミクズが確信したってそんなのあてにならないよね?」
「そういえばそうだね!やっぱり苗木クンはすごいよ!……あはっ、でもどうなのかな?希望を信じてる人たちが随分頑張ってるみたいだけどさ、意味あるのかな?」
苗木は肩をすくめる。そしてまた、嘲笑した。
「さあね。ただ、馬鹿にしちゃいけないよ。案外、追い詰められると力を発揮するものだよ、ああいう人たちは」
狛枝は楽しそうだ。はしゃいでいるようにも見えた。
「窮鼠猫を噛む、ってやつだね!ボクにしては難しい言葉を遣えた気がするよ」
「そうだね、君がよくそんな難しい言葉を遣えたね。誉めてあげるよ、狛枝クン」
「ありがとう、苗木クン!苗木クンに誉められたのなんていつぶりかな!とっても嬉しいよ!」
そう言って、自らの左腕をうっとりと見つめる。恍惚とした表情で、じっと。そしてまた、唇から笑いを漏らした。
「あはは……本当に素晴らしいね、絶望って……!ボクが唯一愛せるものだよ!」
笑いが止むことはない。いつまでも、いつまででも。
苗木は何も言わなかった。
「でもさ、苗木クン。ボク、苗木クンとはずっと一緒にいられたらいいと思ってるよ」
弾かれるように、苗木が顔をあげる。なにかを言いかけて、結局なにも言わなかった。
「……狛枝クン」
苗木はもう笑っていない。
「なに?苗木クン」
「……さっきの、本当かい?」
「もちろんだよ!ボクなんかが苗木クン相手に嘘なんて言える訳がないじゃないか!」
「……だったら一生、離れないと言える?ボクから、一生離れないと」
「苗木クンさえいいのなら、ボクはいつだってその通りにするよ」
「じゃあさ、ボクと、一生絶望してよ。……ずっと、ずっと」
「もちろんだよ!」
ボクが彼から離れたら、彼はどんな絶望を見せてくれるのだろう。想像しただけで、ゾクゾクした。
だが不思議と、それを見たいとは思わなかった。

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