小説C

□キミの絶望を見せてよ!
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彼が曇天の砂浜を歩いているのを見たとき、背筋が凍るかと苗木は思った。
キーボードを叩いてもなんの反応も示さないとき、それは一気に増大した。
……江ノ島だ。
その考えに思い至って、苗木は初めて明確な憎しみを彼女に抱いた。なんでもいいから殴り付けたくなる衝動。床に叩きつけたくなる衝動。
……いつからだろう、それが胃を逆流する高揚に変わったのは。
人当たりの良い笑顔を見せている狛枝。仲間とか絆とか、自分たちなら乗り越えられるとかそういうことを恥ずかしげもなく口にしている狛枝。心なしか日向も、そんな彼に少し心を開いているみたいだ。
……ねえ、キミはそんなんじゃないでしょ。
苗木は口の端を歪める。モニターの脇についている両手の指先に、力が入った。
……キミはそんな『良い人』ってだけじゃない。キミだってこの状況にゾクゾクしてるはずだよ、だからさ、そんな風に眉を悲しげにひそめないで。不安そうな表情を浮かべないで。キミはこんな絶望を、不運とも言い換えられるこれを、そんな風に感じていないでしょ?この先にどんな幸運がやってくるのか楽しみで、でも怖がってるんでしょ?
ボクも怖い。大切な大切なキミがこんなことに巻き込まれて、本当に絶望的だよ。キミはどう思うの?周りの才能の正体を知らないキミは、真実を知ってどんな顔をするのかな?
今は、それだけが楽しみで楽しみで仕方ない。
絶望した狛枝クンを見たとき、ボクはどんな顔をするんだろうか。
苗木は口元を隠すように、手のひらをあてがう。モニターの光を受ける苗木の目元に、影が落ちた。

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