小説C

□やさしくしないで、やさしくして。
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頬をぶって、鈍い音が響いた。
「ねえモナカちゃん、やさしくしないでください」
ろれつが回らない口をぐちゃぐちゃに動かして、言子が言った。モナカが再び手を振り上げる。言子の唇が、へなりと吊り上がった。まだ若い、皮膚と皮膚がぶつかりあう。確かな衝撃を手のひらに感じて、モナカがうれしそうに、目を見開いた。
「もう、言子ちゃんってば心配しすぎだよー。モナカは優しくなんかしないよー、だってー、モナカはあ、言子ちゃんのこと、だあいすきだもん!」
ほんのり赤く染まった手を楽しそうに上に向ける。
「だからね」
モナカは言子の頬を打つ。
「モナカはね」
反対側からもう一度。
「言子ちゃんを悲しませてなくて」
もう一度。
「今、とっても」
もう一度。
「嬉しいのじゃー!」
打たれた言子の頬は、がくんと力の方向に回る。結った二つの髪の先が荒く踊って、言子の肩に収まった。
「痛いですう……でも、とっても安心するのです……。モナカちゃんは私のことを分かってくれる……!もうやさしいのはヤなんです……キモチわるいのもイヤなんですうぅう……!」
言子は下唇をぎゅっと噛む。こらえきれなかった嗚咽が、その隙間から漏れた。見開かれた瞳から、耐えられなかった雫がすっと落ちた。
「そうだよねー、言子ちゃんはこんな目にあってるのに、他のキャワイイひとたちだけのうのうと生きてるなんてずるいもんね。だからゲームで、みんな狩っちゃおうよー!そうすればー、みんな幸せになれるんだよ!」
モナカはなおも言子を打つ。打たれた隙間に、言子の呻きが弾けた。
「だぁいじょうぶ。モナカが全部うまくやるよ。みんな……コドモがしあわせになれるように」
彼女の声は柔らかかった。
モナカがわずかに足をぶらぶらさせたのを、言子は見ていない。

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